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英校
ナオスの妹のコマリは12歳。勇者のスキル持ちだ。レベルは1だが。
勇者とかのレアスキルを得た子供は、国家が特別に無償で英才教育をするらしい。
なので、地方に住んでいたナオスのダース家は王都に引っ越しをさせられた。
引っ越しができない家族の子供用に寮があるのだが、ダース家は引っ越して来たのでコマリは自宅から通学できる。
「コマリ、明日から入学だな」
「うん」
「帰りに買い食いはほどほどにしとけな」
「500円までならいい?」
「まあ、それくらいなら」
「やったー!」
「マリオ、ちゃんとコマリの見張りを頼むぞ」
「兄さん」
「ん?」
「見張り代をくれるなら、やるけど」
「……1日500円でいいか?」
「700円」
「600円」
「なら、600円で」
「分かった」
「お兄ちゃん、私は1人で大丈夫だよ」
「あのな、大丈夫って言うやつは、だいたいは大丈夫じゃないからな」
「そうなの?」
「ああ」
「父さんな、コマリは可愛いから誘拐とか心配だ」
「あら、それは怖いわね」
「だよな」
「父さん、コマリは勇者だぞ」
「だけどな」
「レベル1でも勇者だし、大人の男の3倍は強いから」
「大人の男が4人来たら」
「勇者を誘拐なんてしたら、国家が黙ってないから」
「なるほど」
「襲われたら全力ビンタしていい?」
「まあ、襲われたらな」
「やったー!」
「いや、喜ぶなよ」
「もうね、どんどん誘拐しに来てほしいよね」
「お前な、わざと誘拐してもらおうとするなよ」
「だめなの?」
「駄目だ」
「えー!」
「マリオ、本当に頼むぞ」
「うん。お金をもらう以上はちゃんとやるよ」
「うん。マリオは偉いな」
「偉くないよ。お金が好きなだけ」
「そうか」
「うん」
「まあ、好きなものがあるのは良いことだ」
「だよね」
レアスキル持ちが通う学校は王都にあって、王都英才学校と呼ばれる。
略して「英校」
英校の生徒は豪華な制服を着ているので、パッと見でそれと分かる。
英校では生徒1人に先生が1人。マンツーマンで教育されるのだ。
コマリの担当に選ばれたのは、35歳のカリー先生。
カリー先生は学校長に呼ばれた。
「カリー先生、久しぶりの勇者担当ですね」
「はい」
「今度の勇者は女子です」
「はい」
「それも、かなり可愛いそうです」
「はあ」
「サリー先生はイケメン勇者と男女の仲になってしまい大変でした」
「そうでしたね」
「カリー先生、間違えても」
「12歳の生徒に手なんか出しません」
「本当に頼みますよ」
「お任せください」
去年、13歳のイケメン勇者と、23歳の美人教師のサリー先生が校内でエッチするという不祥事があったのだ。
サリー先生は解雇になり、その時の学校長は責任を取らされて左遷された。
元学校長は怒り、問題を起こしたサリー先生をボコボコにした。
そんなサリー先生が大好きだったイケメン勇者は、元学校長をボコボコにした。
とにかく、大変だったのだ。
コマリとマリオの入学式が行われ、学校長の長い話が続いた。
「あの、校長先生」
「コマリさん、話の途中ですよ。それに私は学校長です」
「ビンタしていい?」
「はい?」
「やったー!」
ビタン!
「ぐふっ!」
ドン!
学校長にビタンしたコマリ。学校長は吹っ飛んだ。
「「「が、学校長!」」」
騒然となる入学式。
「おい、コマリ」
「え?」
「なんでビタンしたんだよ」
「手加減はしたよ」
「どうしてビンタしたんだ?」
「だって、ビンタしていいって聞いたら、『はい』と言ったから」
「たぶん、その『はい』と違うよ」
「え? 『はい』は『はい』だよ」
「コマリ=ダース! 何てことを!」
担当教師のカリー先生が走ってきた。
「先生、すみません」
マリオは頭を下げた。
「マリオ、どうして謝るの?」
「そうです、謝るのはコマリ=ダースです」
「どうして?」
「君は馬鹿なのか?」
「先生、馬鹿と言った人が馬鹿なんだよ」
「……ふー。レベル1ごときの勇者が大人をなめるな!」
ドン!
カリー先生はコマリの腹を殴った。
吹っ飛ぶコマリ。
「あ」
「マリオくん、大丈夫。ちゃんと手加減はしました。しばらくは気絶して」
「先生、なかなかのパンチだね」
「は?」
コマリは何ごともなかったように立ち上がった。
「……少し手加減しすぎたようですね」
「うん。まったく少しも痛くも痒くもなかったよ。本気できなよ」
「なめるな、小娘!」
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
カリー先生はパンチでコマリの顔や心臓、肝臓とかを五連打した。
カリー先生の必殺技だ。
「あ、やべっ」
カリー先生はコマリを殺してしまったと思った。死んでなくても再起不能な後遺症が残ると。
「先生、またまた手加減しすぎだよ」
「はあっ!?」
無傷で立ち上がるコマリ。
「先生、そんなぬるいパンチじゃ、私は倒せないよ」
「……お前、化け物か?」
「嫌だな〜、人間だよ?」
「何で疑問文なんだ」
「そんなに褒めないでよ」
「褒めてない!」
「コマリ」
「ん?」
「兄さんに言いつけるぞ」
「先生、校長先生、ごめんなさい」
「謝ってすむか!」
「カリー先生」
「あ、はい」
学校長が復活した。
「私は何とか無事です。まあ、謝ったことですし、今回は許しましょう」
「はあ、まあ、学校長がそう言われるなら」
「マリオ」
「ん?」
「お兄ちゃんには言わないでね」
「1000円だ」
「えー、分かったよ」
コマリは何でか、兄のナオスが怖いのだった。野生動物の勘みたいなものかもしれない。
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