教室

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王都英才学校 勇者のスキルを得たコマリと、錬金術師のスキルを得たマリオの、ナオスの双子の妹弟が通うことになった国立の学校だ。 新入生は不定期に入ってくるので、入学式は新入生と教師たちだけが出席して学校長室で行われる。 その入学式で学校長をビンタしたコマリをボコボコに殴ったカリー先生。 学校長に注意された。 「カリー先生」 「はい」 「生徒には手を出さないと言いましたよね」 「出してませんが」 (出してるやん、ボコボコに殴ってたやん)と思う学校長。 「エロいほうではない、暴力のほうでです」 「いえ、それは」 「それは?」 「学校長を守ろうとして」 「カリー先生」 「はい」 「私も王都英才学校の元教師。あんなビンタくらいに負けるとでも?」 「あ、いえ」 (あんた、あっけなく吹っ飛んで軽く気絶してただろ)と思うカリー先生。 「校長先生は強いんだね」 「コマリさん、私はカリー先生と話してます」 「ビンタしていい?」 「駄目です」 「えー!」 「コマリさんは、どうしてビンタしたいんですか?」 「本能?」 「そんな本能は理性で抑えてください」 「できるかな?」 「それを教えるのも、この王都英才学校の教育です」 「へー」 「コマリさんはお兄さんが怖いんですか?」 「うん」 「カリー先生より強いんですか?」 「お兄ちゃんは暴力なんてしないよ」 「では、何が怖いんですか?」 「何となく、怖いんだよ」 「なるほど。なら、コマリさんが先生たちの言うことを守らないなら、お兄さんに言いつけますからね」 「先生たちも私たちに変な事をしたら、お兄ちゃんに言いつけるよ」 「それは怖そうだ」 「うん」 「カリー先生」 「はい」 「入学式はこれで終わります」 「はい」 入学式が終わり、コマリはカリー先生、マリオはユリー先生と教室へ向かった。 教室と言っても個室なのだが。 王都英才学校では、先生は生徒をマンツーマンで教える。家庭教師みたいなものだ。 「コマリさん、そこに座りなさい」 「うん」 「返事は『はい』です」 「はい?」 「この王都英才学校を無事に卒業したら、卒業生は上級の国家公務員になります」 「へー」 「無事に卒業できたら、ですが」 「卒業できない人もいるの?」 「います」 「かわいそうだね」 「まあ、人の幸せはそれぞれですがね」 「人生って、難しいね」 「上級の国家公務員となると、王族や貴族と関わることも多くなります」 「へー」 「そんな時の礼儀作法や知識を教えるのも、この王都英才学校の教育です」 「なるほどー」 「15歳の誕生日にレベル5以上にならないと卒業できません」 「へー」 「レベル4以下だと、卒業証明書はもらえず、上級国家公務員にもなれません」 「なるほど」 「その場合、この学校でかかった費用は返してもらいます」 「えー? 無料って聞いたよ」 「無事に卒業できたら無料です」 「聞いてないよ」 「それが国のルールなのです」 「この国もせこいね」 「……この王都英才学校に入学するようなスキル持ちなら、長くても10年で無理なく返せます」 「私でも?」 「そうなるように、この3年間で私がコマリさんを教育します」 「なるほど。あの、カリー先生もスキルを持ってるの?」 「私のスキルは勇者でレベル4です」 「先生も勇者なんだね」 「卒業できなかったレベル4ですけどね」 「凄いね」 「凄くないから、学校で教師をやってます」 「凄い勇者は何をしてるの?」 「だいたいは王族や貴族、さらには、この国を守る仕事です」 「へー」 「上級国家公務員ですから」 「給料はいくらですか?」 「働きによって変わりますが、最低でも月に100万円らしいです」 「うへー! 先生は?」 「……教えません」 「先生なのに?」 「個人情報は教えません」 「ふーん」 マリオは別の教室てユリー先生の話を大人しく聞いていた。   ユリー先生は22歳の美人の先生だ。 「マリオくんはコマリさんと違って落ち着いてるわね」 「はい」 「私はレベル3の錬金術師です。勘違いしている人も多いけど、安い材料で金貨とか作れません」 「知ってます」 そう、錬金術には対価が必要で、その対価は等価交換なのだ。 金貨1枚を錬金術で作ろうとしたら、金貨1枚分の材料が必要なのだ。 土から金貨1枚を作ろうとしたら、山のような土を手に持たなければならない。 そんな山のような土なんて持てないから、実質的に土から金貨を作るのは無理なのだ。 土から銅貨を作るくらいなら何とかなるが、そんな事をするくらいなら、普通に働いて銅貨を稼ぐほうが何倍も簡単で楽なのだった。 「知ってるならがっかりしたと思うけど、錬金術も使いようでは便利です」 「どのように?」 「レベル3の錬金術師だと、手に持った物を食料とかに変換できます」 「はあ」 「山で遭難した時など、そのへんの物を手に取れば食料は自給できますね」 「なるほど」 (俺、山なんて行かないけど) 「寒ければ、そのへんの物で服とか作れますし」 「なるほど」 (だから、俺は山なんて行かないけど) 「錬金術を使うには、掌に消えにくい塗料で正確な錬成陣を書きます」 「はい」 「両手に書いておけば、2回はすぐに使えます」 「そうですね」 「これからの3年間で、どちらの手でも素早く正確に錬成陣をかけるようになりましょうね」 「そうですね」 (まるで、お絵かき教室だな)と思うマリオだった。
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