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ナオスの前で土下座するガタイの良いおっさん。 「あの、立って良いですか?」 「おっさんの名前は」 「デン、です」 「デンさん」 「はい」 「これからは人様に迷惑をかけずに真面目に生きるように」 「はい」 「立っていいよ」 「ありがとうございます、兄貴」 「俺はおっさんの兄貴じゃないから。ナオスさんで」 「はい、ナオスさん」 ナオスは受付に戻った。 「で、俺の仕事はありますか?」 「あ、そうね。えっとね、ちょっと別の部屋に来てくれるかな」 「別の部屋にですか?」 「そう」 (騒ぎを起こしたから始末書とか書かされて罰金とか?) 「分かりました」 受付のお姉さんに案内されるナオス。 デンと名乗ったおっさんも付いてくる。 「デンさんは呼んでませんけど」と、受付のお姉さん。 「いえ、俺はナオスさんの子分なので」 「は?」 「俺のことはナオスさんの部下と思ってください」 「はあ」 「デンさん」 「はい」 「そのへんの邪魔にならない隅で、俺の用事が済むまで静かに待ってて」 「分かりました」 そして、ナオスは受付のお姉さんと別室へ入った。 (先に謝っておくか) 「さっきは騒ぎを起こしてすみませんでした」 「あー、いいのよ」 「え?」 「騒ぎを起こしたのはデンさんだし、悪いのはデンさんだしね」 「いえ、俺も余計な事を言ったので」 「あのおっさん、また問題を起こしたら出禁だったのよ」 「問題児でしたか」 「そう。おっさんだけど」 「では、俺をこの部屋に呼んだ要件は?」 「何だと思う?」 「分かりません」 「ふふふ。お姉さんと良いことをする?」 「いえ、興味がありません」 「えー! お姉さんショックだわ〜」 「異性に興味がないので」 「あら、男が好きなのね」 「人間に興味はないです」 「あら」 「あの、本当に要件は」 「あ、そうね。ナオスくん、君さ、スキルの嘘は駄目だぞ」 「え?」 「修復師レベル3って嘘よね」 「いえ、本当にスキルは持ってますよ」 「だから、本当はもっと凄いレベルのスキルだよね」 「いいえ」 「あのね、お姉さんの目は節穴じゃないから」 「本当にもっと凄いスキルなら、もっと自慢してますよ」 「君さ、ほとんど人生を投げてるよね」 「え?」 「若いのにさ、生気というかヤル気というか、そんなのが無いんだよね」 「まあ、そのとおりです」 「どうして?」 「のんびりと寝てやれる仕事はないですか?」 「は?」 「のんびりと寝てやれる仕事がやりたいんですけど」 「……あのさ」 「はい」 「そんな仕事があるなら、私がやってるわよ」 「やはり、王都でも無いですか」 「でも」 「え?」 「のんびりと、ほとんど休んでても良い仕事なら紹介するわよ」 「そんな仕事が有るんですか?」 「ふふふ。有るんだな、これが」 「それ、お願いします」 「オッケー」 ナオスは受付のお姉さんから、のんびりと、ほとんど休んでていい仕事の説明を受けた。 「えっと……この仕事斡旋所の受付を俺がですか?」 「そう」 「あの、受付って忙しいのでは」 「あー、ナオスくんは寝てるかボーッとしてて良いから」 「え?」 「たまにさ、デンさんみたいな困った問題児が来たときだけ、受付を代わってよ」 「え?」 「ナオスくん、悪い人を良い人に変えれるよね」 「……いや、無理です」 「どんなスキルなのかは知らないけど、できるよね」   「できませんが」 「デンさんみたいなガタイのいいおっさんに殴られても、少しも怪我してないし」 「後ろに飛んでダメージを少なくしただけですよ」 「どうして、凄いスキルを隠してるの?」 「隠してません」 「まあ、あれよ」 「あれ、とは」 「平均的にね、たちの悪い問題児は20人に1人くらいだから」 「そんなに問題児がいるんですか?」 (王都、大丈夫なのか?) 「問題児の確率って、そんなもんじゃない?」 「さあ?」 「まあ、今日みたいに、いきなり殴ってくるのは滅多に居ないけどね」 「はあ」 「だから、ナオスくんは、ほとんどボーッとしてていいからさ」 「いいからさ、って言われても」 「20万円」 「え?」 「ほとんどボーッとして月給20万円で、どう?」 「あの、勤務時間や休みとかは」 「お役所と同じよ」 「本当に?」 「ナオスくんを怒らすと怖そうだから、嘘なんて言わないわよ」 「でも、そんな適当な採用を、お姉さんが決めて良いんですか?」 「私、ここの所長だし」 「え?」 「両親がやってる斡旋所だったんだけど、私が仕事を覚えたくらいに両親がね」 「それは大変でしたね」 「そうなのよ」 「お亡くなりになるなんて」 「ピンピンしてるけど」 「え?」 「田舎に土地を買って引っ越したわ」 「え?」 「のんびりと暮らしたいから後は頼んだ。って」 「……それは大変でしたね」 「そう、大変なのよ。だから助けて」 「いや、助けてって言われても」 「仕事を探してるんだよね」 「はい」 「ほとんどボーッとしてて、勤務時間とかお役所と同じ、それで月給は20万円って、そんな仕事は絶対に無いわよ」 「……そうかも、ですけど」 「はい、採用」 「はあ」 (まあ、20人に1人くらいを相手にするなら、まあ、いいかな)と思ったナオスだった。
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