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出勤
田舎だと仕事は親の家業の手伝いをしたり、親戚とか知人の仕事を手伝い、それから独立するパターンが多い。
しかし、次男や三男とかは仕事にあぶれて都会へ出ていくことも多いのだ。
都会に仕事のつてがある人はいいのだが、つての無い人は仕事斡旋所で手数料を払って仕事を紹介してもらうことが多くなる。
ナオスも王都では仕事のつてなど無かったので、いや、国にお願いしたら、勇者の兄と言うことで仕事を斡旋してもらえたかもしれないが、何かと制約がありそうなので自力で探すことにしたのだ。
そして、仕事斡旋所「つなぐ」の受付として採用された。
何かと問題のある利用者を相手にしてほしいとのこと。
ガタイのでかいおっさんにも怯まず文句を言ったり、殴られても無傷で立ち上がり、何でか知らないが殴った相手が土下座して謝る不思議な力のようなものを評価されたらしい。
「で、ナオスくんを殴ったりしたら、相手は殴ったりした代償として、ナオスくんの下僕になるってことかしら」
「そんなスキルが有るんですか?」
「知らないけど」
「俺も知らないです」
「ふーん」
「何ですか」
「まあ、ナオスくんが不思議なスキルで他人を好きに操れるとして、それができるなら仕事斡旋所なんかに来ないわよね」
「え?」
「だって、金持ちを不思議なスキルで操れるなら、ナオスくんはお金になんて困らないし」
「まあ、そうですよね」
「ひょっとして、悪い人を良い人に改心させれるスキルなのかなって思うんだけど」
(鋭いな)
「所長さんがそう思うなら、思うのは勝手ですけど」
「見たところ」
「え?」
「引き受けた仕事は最低限の事はやるよね、ナオスくんは」
「まあ、それは人として」
「じゃあ、明日からお願いね」
「本当に最低限の仕事でいいんですね?」
「良いわよ」
「なら、お願いします」
「うん」
廊下へ出ると、隅の方でデンが静かに立っている。
「所長」
「ん?」
「デンさんに仕事を紹介してもらえますか」
「良いわよ。じゃあ、明日からナオスくんはお願いね」
「はい」
家に帰り、仕事が決まった事を話したナオス。
王都では基本的に年齢かける1万円が月給の相場らしい。
15歳のナオスだと、月給の相場は15万円だ。
「ナオス、月給20万円は15歳だと高給取りだぞ」
「みたいだね」
「兄さん、良かったね」
「お兄ちゃん、祝福ビンタしていい?」
「駄目だ」
「えー」
「マリオとコマリには成人するまで毎月2万円やるよ」
「え!? いいの!?」
「やった!」
「ナオス、母さんには?」
「母さんは父さんからもらいなよ」
「えー」
「いや、えーって言われても。10万円は家に入れるから」
「え? そんなにいいの?」
「俺は居候だしね」
「悪いわね」
「独立するまではいいって」
「じゃあ、ありがたくもらうわ」
「うん」
(まあ、月に6万円もあれば十分だろうしな)
翌日、ナオスは所長に言われた時間より早めに初出勤した。
仕事斡旋所「つなぐ」
仕事斡旋所は日本のハローワークと日雇い斡旋所と派遣会社を合わせたような所だ。
ナオスの父親は町役場で働いていたので、そのへんの知識はもっている。ナオスは父親から仕事斡旋所について詳しい事を聞いた。
仕事斡旋所は仕事を探している人から手数料を貰って仕事を紹介するのだが、紹介先からも手数料を貰う。
紹介した人が紹介先で問題を起こしたら、仕事斡旋所が紹介先に損害賠償をしなければならない。
逆に紹介先がブラックとかで紹介した人に被害があれば、仕事斡旋所は紹介した人に損害賠償をしなければならない。
もちろん、仕事斡旋所も損害賠償保険に加入しているが、保険を使えば使うほど保険料は上がっていく。
なので、なるべくトラブルを起こしそうな人は紹介したくないのが仕事斡旋所の本音なのだが、慎重になりすぎて紹介を断ると手数料が入ってこない。
どんな仕事も大変なのだが、仕事斡旋所も中々に大変で難しい仕事なのだ。
「おはようございます」
ナオスは所長に挨拶をした。
「おはよう。早いわね」
「まあ、初日ですから」
「トンズラされたらどうしようかと思ってたわ」
「しませんよ」
「みんなにはナオスくんのことを伝えているから、簡単に後で挨拶してね」
「分かりました」
始業前に所長の話があり、ナオスは簡単に挨拶をした。
「ナオスです」
「「「……」」」
「……」
「挨拶は終わり?」
「はい」
「じゃあ、皆さん。今日も明るく元気にお願いします」
「「「お願いします」」」
仕事斡旋所「つなぐ」の営業が開始された。
仕事を探している人たちが続々とやってくる。
受付窓口は2つで、4人の受付担当が交代で相手をするらしい。
「ナオスくんは、この椅子と机を使ってね」
「ここに座っているだけでいいんですか?」
「問題児が来なければね」
「来ないといいですね」
「そうね」
仕事斡旋所「つなぐ」で働いているのは、所長のほかに受付担当が3人、事務員が1人、営業が2人らしい。
営業はクレーム処理とか雑用もしていて大変そうだ。
「ナオスくんが問題児を改心してくれたら、営業もだけどみんな助かるわ」
「そんな簡単に、いけばいいですけど」
「いくわよ」
(その根拠はどこから?)と思うナオスだった。
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