17人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
初仕事
所長は受付の手伝いをしたり、営業さんや事務員さんに報告を受けたり指示したりしている。その合間にナオスと話をしに来る。
「でね、さっきの続きだけど」
「あの、忙しいなら仕事が終わったあとで聞きますけど」
「あのね」
「はい」
「うちは残業なしなの」
「はあ」
「でね、うちは小さいのよ」
「何がです?」
「斡旋所の規模がね」
「よそは大きいんですか?」
仕事斡旋所の規模なんて知らないナオス。
「そうなのよ。大きな斡旋所は窓口が10くらいあるし」
「それは凄いですね」
「でね、大きな斡旋所で出禁になった問題児がね、うちみたいな小さな斡旋所に来るのよね」
「はあ、それは困りますね」
「そうなのよ。大手は客を選べるからさ」
「所長も大変ですね」
「そうなのよ。だから、ナオスくんを副所長に任命しまーす」
「はい?」
「よっ、ナオス副所長」
「……あの、仕事中に冗談はやめてもらえますか」
「仕事中だから冗談なんて言わないわよ」
「俺、そんな責任なんて取れませんよ」
「ナオスくん、殴られても平気だし、悪い人には負けないし」
「そんな事は無いですけど、それと副所長とどんな関係が」
「もう、決定事項でーす」
そんな事を話していると、何やら窓口のほうが賑やかに。どうやら問題児が来たらしい。
子供は受け付けないから、正確には問題大人なのだが。
「先生、お願いします」
「先生?」
「ささっ、とっととお願いします」
「何をですか」
「嫌ですよ、先生。悪人退治に決まっております」
「……俺はこの斡旋所の用心棒ですか」
「さようです。先生」
「……まあ、騒がしいのは嫌なので何とかしますけど」
「よっ、待ってました!」
「……」
ナオスは受付から出ると、騒いでいるお客さんのおっさんに近づいた。
「おっさん、いえ、お客さん、どうしました?」
「あん? 誰だてめえは」
「えっと……副所長です」
「は? お前が?」
「今日から」
「そうか。お前が副所長なら慰謝料を払え」
「誰にです?」
「俺にだよ!」
「どうして」
「その窓口の女がな、俺の希望通りに紹介できる仕事は無いと言ったからだよ! ふざけやがって!」
窓口のお姉さんを指さして叫ぶおっさん。
「おっさん、いえ、お客さんはスキル持ちですか?」
「そんなもんがあったらな、こんなクソみたいな斡旋所に来るかよ!」
「じゃあ、特技とかは」
「けんか、あ、いや、体力には自身が……そんな事はどうでもいいんだよ!」
(どうでも良くはないけど)
「なら、どんな仕事を希望です?」
「若くて美人の多い職場で、そんな女たちが俺をマッサージしたりチヤホヤしてくれる仕事を紹介しろ」
(このおっさん、アホなのか?)
「無いです」
「あん?」
「そんな仕事があると、本気で思ってます?」
「馬鹿にするな! 王族とか貴族とかな、そんな奴らはそんな感じだろうが!」
「なら、こんなところに来ないで、王族か貴族の娘と結婚したらいいのでは」
「なるほど。じゃあ、それを頼む」
「は?」
「てめえは馬鹿か?」
「意味が分からないので」
「王族か貴族の娘と結婚できる仕事を紹介しろってんだろ!」
(おいおい、どんな仕事だよ)
「分かりました」
「てめえ、本当に分かったのか?」
「はい」
「なら、早くしろ」
「馬鹿と話しても埒が明かないって、よく分かりました」
「てめえ!」
ガッン!
ナオスはおっさんに殴られて吹っ飛んだ。
ナオスは身長が平均より低くて細身なのだ。なので、殴られると吹っ飛びやすい。
殴られる瞬間に、おっさんの身体を触ったナオス。
殴られてもスキルの無痛で痛くないし、身体自動回復で怪我なんて瞬間的に治ってしまう。
おっさんはナオスのスキルによって改心し、ナオスに土下座した。
「すみませんでした!」
立ち上がるナオス。
「おっさん、これからは人様に迷惑をかけずに真面目に生きろよ」
「はい!」
パチパチパチパチパチパチパチ
「よっ、先生! お見事!」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチ
「よっ、副所長!」
(よっ、じゃないよ。しかし、時代劇みたいだな)と思うナオスだった。
最初のコメントを投稿しよう!