初仕事

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初仕事

所長は受付の手伝いをしたり、営業さんや事務員さんに報告を受けたり指示したりしている。その合間にナオスと話をしに来る。 「でね、さっきの続きだけど」 「あの、忙しいなら仕事が終わったあとで聞きますけど」 「あのね」 「はい」 「うちは残業なしなの」 「はあ」 「でね、うちは小さいのよ」 「何がです?」 「斡旋所の規模がね」 「よそは大きいんですか?」 仕事斡旋所の規模なんて知らないナオス。 「そうなのよ。大きな斡旋所は窓口が10くらいあるし」 「それは凄いですね」 「でね、大きな斡旋所で出禁になった問題児がね、うちみたいな小さな斡旋所に来るのよね」 「はあ、それは困りますね」 「そうなのよ。大手は客を選べるからさ」 「所長も大変ですね」 「そうなのよ。だから、ナオスくんを副所長に任命しまーす」 「はい?」 「よっ、ナオス副所長」 「……あの、仕事中に冗談はやめてもらえますか」 「仕事中だから冗談なんて言わないわよ」 「俺、そんな責任なんて取れませんよ」 「ナオスくん、殴られても平気だし、悪い人には負けないし」 「そんな事は無いですけど、それと副所長とどんな関係が」 「もう、決定事項でーす」 そんな事を話していると、何やら窓口のほうが賑やかに。どうやら問題児が来たらしい。 子供は受け付けないから、正確には問題大人なのだが。 「先生、お願いします」 「先生?」 「ささっ、とっととお願いします」 「何をですか」 「嫌ですよ、先生。悪人退治に決まっております」 「……俺はこの斡旋所の用心棒ですか」 「さようです。先生」 「……まあ、騒がしいのは嫌なので何とかしますけど」 「よっ、待ってました!」 「……」 ナオスは受付から出ると、騒いでいるお客さんのおっさんに近づいた。 「おっさん、いえ、お客さん、どうしました?」 「あん? 誰だてめえは」 「えっと……副所長です」 「は? お前が?」 「今日から」 「そうか。お前が副所長なら慰謝料を払え」 「誰にです?」 「俺にだよ!」 「どうして」 「その窓口の女がな、俺の希望通りに紹介できる仕事は無いと言ったからだよ! ふざけやがって!」 窓口のお姉さんを指さして叫ぶおっさん。 「おっさん、いえ、お客さんはスキル持ちですか?」 「そんなもんがあったらな、こんなクソみたいな斡旋所に来るかよ!」 「じゃあ、特技とかは」 「けんか、あ、いや、体力には自身が……そんな事はどうでもいいんだよ!」 (どうでも良くはないけど) 「なら、どんな仕事を希望です?」 「若くて美人の多い職場で、そんな女たちが俺をマッサージしたりチヤホヤしてくれる仕事を紹介しろ」 (このおっさん、アホなのか?) 「無いです」 「あん?」 「そんな仕事があると、本気で思ってます?」 「馬鹿にするな! 王族とか貴族とかな、そんな奴らはそんな感じだろうが!」 「なら、こんなところに来ないで、王族か貴族の娘と結婚したらいいのでは」 「なるほど。じゃあ、それを頼む」 「は?」 「てめえは馬鹿か?」 「意味が分からないので」 「王族か貴族の娘と結婚できる仕事を紹介しろってんだろ!」 (おいおい、どんな仕事だよ) 「分かりました」 「てめえ、本当に分かったのか?」 「はい」 「なら、早くしろ」 「馬鹿と話しても埒が明かないって、よく分かりました」 「てめえ!」 ガッン! ナオスはおっさんに殴られて吹っ飛んだ。 ナオスは身長が平均より低くて細身なのだ。なので、殴られると吹っ飛びやすい。 殴られる瞬間に、おっさんの身体を触ったナオス。 殴られてもスキルの無痛で痛くないし、身体自動回復で怪我なんて瞬間的に治ってしまう。 おっさんはナオスのスキルによって改心し、ナオスに土下座した。 「すみませんでした!」 立ち上がるナオス。 「おっさん、これからは人様に迷惑をかけずに真面目に生きろよ」 「はい!」 パチパチパチパチパチパチパチ 「よっ、先生! お見事!」 パチパチパチパチパチパチパチパチパチ 「よっ、副所長!」 (よっ、じゃないよ。しかし、時代劇みたいだな)と思うナオスだった。
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