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項垂れながら帰路を辿る真夜中。
いつかのマジシャンから奪ったトランプが、躓いた弾みで懐から滑り落ちた。
「おっと」
すかさず屈んで拾おうとした。
ところが、それらは闇に潜ったまま二度と姿を現さなかった。
そもそも探さなくていいじゃないか、所詮他人の物なのだから。
でも、なぜか私は捜索を続けていた。1枚、2枚、そして、52枚と。
最後の一枚は奇しくもダイヤの8だった。
暗がりに浮かぶ赤模様は素晴らしく不気味だ。
「ん……?」
なんと信じ難い。言葉通り、首を傾げ目を擦った。
いや、見間違いか。今一瞬、ダイヤの8がクローバーの3に見えた気がした。
対立する赤と黒。ましてや数字も異なる。
「何やってんだ……」
自分に吐く溜め息は甚く虚しい。
「マジシャンを舐めるなよ」
幻聴ではない。確かにそう聞こえた。眼前には懲らしめたはずの父親がいる。
私がトランプマジックを失敗させた男も。
気が付けば、三年間のうちに成敗してきたマジシャン全員が
数メートル先にずらりと仁王立ちしていた。
私は夢を見ているのか。息が苦しい。
恐る恐る下に視線を移すと、丹精込めて研いだ剣が私の胸を鮮やかに貫いていた。
今度は疑いなく血液が滴り乱れている。
何を間違えた? 手段か? 相手か?
マジシャンは本当にろくな人間じゃない。
意識を失くした私は、崩れかけたアスファルトと共に
永遠の冷気に包み込まれたのであった。
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