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私がその場を離れると、父親は平然と場を仕切り直した。
「さぁ、ショータイムです!」
一本目の剣が箱を突き破る。客席から悲鳴が上がるも、出血は無し。
次いで二本目も同様に刺し込まれる。またも剣穴に紅は滲まない。
それもそのはず。私は扉を閉めたのだから。
決して良心が咎めたわけではない。
家族間の争いで流れ弾を被る女性を気の毒に思っただけだ。
趣のないマジックはそのまま何事もなく終わった。
父親は改めて深々とお辞儀する。復讐はここからだ。
ステージ中央に駆け出した私は、
奴の両腕を後方で縛り、箱に力ずくで押し込めた。
「おい、何をする!」
怒号も気にしない。淡々と第二の計画をこなすのみ。
他のアシスタントは恐怖で身が竦み、瞬時に動けないでいる。
鉄格子窓のある正面の蓋を閉めた私は、一思いに覆面を剥がした。
「か、和希!?」
檻越しに奴は分かりやすくたじろぐ。もっと困り果てるがいい。
息子の逆襲に戦慄し、泣き喚いてくれよ。
私はそっと予備の剣を取り出す。磨き抜かれた先端は素晴らしく鋭利だ。
「やめろ、親不孝者! た、助けてくれ!」
「はぁ……」
最期まで命乞いか。幻滅したよ。躊躇いなく公開処刑に至ろうじゃないか。
「これが……真のイリュージョン!」
標的の腹部目掛け、私は剣を突き立てた。間を置かず失神する父親。
心地良い金切り声が辺りに充満する。これを待っていた。
憎悪に溺れた人生は今まさに絶頂に達したのだ。
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