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私の衣装はまるで赤黒く染まらなかった。つまり、返り血は浴びていない。
実は扉を閉じたままにしておいた。父親は恐怖のあまり気を失っただけだ。
必然なる沈黙は史上最悪のショーの幕切れには相応しい。
「これで懲りてくださいね。ですが、恨みが完全に晴れたとは思わないように」
そう言い残し、騒然とする会場を私は足早に去った。
私が父を殺さなかった理由。
それは見せしめ。恐怖心はトラウマとなって脳裏にこびり付く。
幻影に苦しめばいい。執念深き苦痛を身をもって知りな。死よりも辛い極刑だ。
凶悪なマジシャンは始末した。もちろん、金輪際顔は合わさない。
ただ、心にはなぜか空洞が。私が生に従った意味はあっけなく失われた。
今日から私は何を目標に生きればいいのだろう。
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