古屋 みけ

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 新しく買ったばかりの服が早く着たくて、バイト前に制服から着替えてきたけれど、まだ寒かったかな。3月の夜はまだ冷える。そんなこと分かっていたのに、袖を通した古着のパーカー。これだけじゃやっぱり、寒かったや。首をすくめて少しでもあたたかくなるように、身を縮める。ああ、早く会いたいな。  なんて、そんなことを考えてる自分が恥ずかしくて、慌てて今の考えを撤回した。違う、違う。  そんな恋する乙女の杞憂を吹き飛ばすように、ビル街の小さくて四角い空を見上げて息を吐いた。まるで煙草の煙のように、白い息はぷか、と煙って消えていく。何の匂いもしない無害で健康的なその煙は、曲によっかかりすぎた情緒のせいで頭をクラクラさせて、景色が表面張力で歪む。わたしはその中をぷかぷかと、浮いていて、丸みを帯びたフォントの「恋愛」を抱えたまま涙目になる。  最近、涙脆い。  ふとした瞬間にほろほろ、泣いている。  別に悲しくも、痛くもないのに。  けど、理由は分かってる。
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