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「こんばんは」
「お、みけちゃんいらっしゃい。バイト帰り?」
店長に挨拶をしてカウンターの座席に荷物を置いて私も、座る。差し出されたオレンジジュースを飲みながらようやくヘッドフォンを外した。途端、流れ込んできたのはわたしを放ったままにする喧騒ではなくスローテンポの安心する音。
「はい。で、また泣いちゃったんで来ました」
「なんやろね、季節的なものかなぁ」
カラン、とわざと鳴らす氷に代わりに喋ってもらい、わたしはただ黙って店長の奥にピントを合わせ、棚に並んだウイスキーの瓶たちを眺めた。視界の端に映る袖をまくった店長の腕が、そこに通る筋肉のラインが、わたしの胸を痛く締め付けた。酩酊。オレンジジュースで。なんてのは嘘で、店長に。
「店長、上見てきていいですか」
直視できない好きな人から逃げるように店の2階に展開された古着屋へと逃げ込む。
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