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足を踏み入れるたびに、ギイと鳴る木の床はわたしの存在をこれでもかと主張した。
そして見上げる手の届かない場所のレザージャケット。別に、店長に頼めば取れるのに、なぜかそうする事ができないままもう一ヶ月は経つ。わたしがこの店に出入りするようになってから、ずっとだ。
最初は地図アプリを使ってこの古着屋に来るつもりだった。んで、示された場所のドアを開けたらあの店長が居て、そこはBARで。小説にでもありそうな展開に、わたしの足は一歩前へと進んでしまっていた。あの時に「すみませんでした」って言って逃げていたら、手の届かないものに困ることなんて無かったのに。
言わば、あのジャケットは店長で、手を伸ばしていいのかどうか分からない、分かりたくない、だからそのままずっと見てるだけ。
「みけちゃーんなんか食うかー?」
「あ、じゃあオムライス。ピーマン抜きで」
階段の下から突然声をかけてきた店長に爆発しそうな心臓の音を聞かれないよう、平常心のまま答える。ちょっと可愛いから抜いてもらうピーマンも、店長はその理由なんて知らないはずだ。わたしがそんなくだらない嘘をつく理由、なんて。
ギイ、ギイ、という音で隠す心音。綺麗に畳まれたトレーナーから、店長の指を想像して嫌な気持ちになる。汚い、こんなふうに考えるわたしは。
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