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一瞬時が止まったかのように思考が停止した。みるみる脈がはやくなり、軽く目眩さえする。
だって、どうしてあの男がここにいるの。
もしかしてこれは夢?昨日香菜とアイツの話をしたから出てきちゃった?
それともあの人は、あの男に似ているだけの全くの別人だったり。
いや、私があの男を見間違えるはずがない。
あの切れ長の目に無機質な瞳。伊丹マネージャーも背が高いけど、彼に負けないくらい高身長のあの男は、いつもその温度のない目で私を見下ろしていた。
一見クールに見えて、私を小馬鹿にする時はよく笑うしよく喋る。口が達者で人を味方につけるのが上手く、まさにガキ大将みたいな男だ。
あの男が同じ会社なのは知っていたけど、でもどうして今ここに?
確か彼は本社勤務だ。てことは、抜き打ち監査だったり。
「皆さんにちょっと大事なお話ですー」
伊丹マネージャーが無造作ヘアをくしゃりと掻きながら周りの職員に声を掛ける。これから“大事な話”をするのに、眼鏡のレンズから覗く目はまだ眠そうで、彼のやる気のなさに少し緊張感が緩んだ。
「皆さんが知っての通り、田村リーダーが当面の間休職されます。なので急遽本社から人員を…」
「えっ」
無意識に声が漏れて、慌てて手で口を塞いだ。
待って、それってもしかして…。
「……ということで、田村リーダーに代わってこの方が今日からリーダーになります。はい、挨拶どうぞ」
「本社から来ました、日向です。よろしくお願いします」
彼の口から出たのは、私のとてもよく知っている名前だった。
ああ、無理。膝から崩れ落ちそう。
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