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どどどどどうしよう。いや、だめだ動揺するな。こんなことで取り乱してたら先行きが不安過ぎる。
バクバクと音を立てる心臓を何とか気持ちを落ち着かせるため、ぺちゃんこの胸に手を当てて呼吸を整えていると、ふと後ろに人の気配を感じた。
何だかめちゃくちゃ見下されている気がする。女性にしては高い170センチの私を見下ろせる人なんて、伊丹マネージャー以外このオフィスにいただろうか。
そこでふとあの男の顔が脳裏に浮かび、ぶるりと身体が震えた。
いや、そんなはずがない。そう自分に言い聞かせながら、恐る恐る振り返り、ゆっくりと視線を上げる。
そして後ろに立つ人物の顔を視界に捉えた瞬間
「ひっ…!」
変な声が出かけたのを慌てて飲み込み、後ろにひっくり返りそうになるのを何とか耐えた。
嫌な予感が的中した。背後に立っていたのは、やっぱり日向 桜佑だった。
焦る私を余所に、桜佑は静かに私を見下ろしている。昔と変わらないあの無機質な目で。
誰か助けて…足に力が入らない…。
「…俺の席」
「は、はじめまして!わたくし佐倉と申します!日向リーダーのデスクですか?すぐ田村リーダーに確認してきますね!少々お待ちを!」
矢継ぎ早に放った後、目も合わさないまま逃げるように彼のそばを離れた。
“はじめまして”作戦で誤魔化せていますようにと、神様に願いながら。
佐倉 伊織、あの男との再会からたった数分で、既に大ピンチです。
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