01.過ちにキス

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桜佑は昔、近所のアパートに住んでいた。両親は離婚してお父さんと二人暮しだったのを知っている。 噂によると桜佑のお父さんは酒癖が悪く、おまけにギャンブル好き。そんなお父さんに愛想を尽かせたお母さんが、桜佑を残して家を出ていったんだとか。 桜佑の口から両親の話を聞いたことはないから、本当のことはよく知らないけれど。 母曰く、幼いころ私と桜佑はよく遊んでいたらしい。私にはいじめられた記憶しか残っていないけど、気付けばいつもふたり一緒だったと母は言っていた。 だから私の母は、私達が小学生になってからも大の仲良しだと勘違いしていて、よく桜佑を家に呼んで一緒にご飯を食べていた。母は昔から桜佑がお気に入りだったから。 私はあまりその時間が好きではなかったけれど、桜佑がいつも家でひとりでご飯を食べているのを知っていたから、あまり強く拒否することが出来なかった。 桜佑も桜佑で、私のことが嫌いなら断ればいいのに、奴はくっつき虫のようにいつも私の隣にいた。私のことを“男”だと揶揄い馬鹿にするくせに、どこに行く時も私を離さなかった。 桜佑の家族はお父さんしかいないから、もしかすると桜佑は女の人が苦手なのかも。だから私を男として扱うのかも。と、良いように捉えようとした事もあった。 でも奴がそんな回りくどいことをするような男だと思えず、私の中で桜佑はただの意地悪な男になっていった。
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