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「はい」
低い声、たった2文字の言葉がやけに響いて聞こえた。
「こちらの書類に目を通していただきたいのですが」
微かに震える手で持っていた書類を差し出す。緊張で吐きそうな私とは反対に、桜佑は終始落ち着いた様子でその書類を受け取った。
「分かりました」
あ、やっぱり“私”って気付いてない。
桜佑の返事を聞いて、何となくそう思った。それに私を映すその目が優しさを孕んでいるような気がしたから。
「…至らない点も多々あるかと思いますが、よろしくお願いします」
そう言葉にしながら会釈した瞬間、一気に肩の力が抜けた。安心感からか、無意識に頬が緩んでしまう。
「では…」
そう付け足し、踵を返した。今晩、この事件のことを香菜に伝えようかどうしようかなんて、呑気なことを考えながら。
この時の私は完全に安心しきってた。
ほんと、何を根拠に“大丈夫”だと思ったんだろう。油断していた自分を、呪ってやりたい。
「───お前、全然変わってねぇな」
日向 桜佑がこの私を忘れるなんて、絶対にありえないんだから。
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