01.過ちにキス

15/40

13763人が本棚に入れています
本棚に追加
/309ページ
「はい」 低い声、たった2文字の言葉がやけに響いて聞こえた。 「こちらの書類に目を通していただきたいのですが」 微かに震える手で持っていた書類を差し出す。緊張で吐きそうな私とは反対に、桜佑は終始落ち着いた様子でその書類を受け取った。 「分かりました」 あ、やっぱり“私”って気付いてない。 桜佑の返事を聞いて、何となくそう思った。それに私を映すその目が優しさを孕んでいるような気がしたから。 「…至らない点も多々あるかと思いますが、よろしくお願いします」 そう言葉にしながら会釈した瞬間、一気に肩の力が抜けた。安心感からか、無意識に頬が緩んでしまう。 「では…」 そう付け足し、踵を返した。今晩、この事件のことを香菜に伝えようかどうしようかなんて、呑気なことを考えながら。 この時の私は完全に安心しきってた。 ほんと、何を根拠に“大丈夫”だと思ったんだろう。油断していた自分を、呪ってやりたい。 「───お前、全然変わってねぇな」 日向 桜佑がこの私を忘れるなんて、絶対にありえないんだから。
/309ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13763人が本棚に入れています
本棚に追加