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ボソッと後ろから聞こえてきた声に、一瞬にして身体が凍りついた。
「……え?」
きっとこれは幻聴だ。
そう何度も自分に言い聞かせながら、恐る恐る振り返る。
「いや、全然変わってねぇなーと思って」
けれど、目が合ったと同時に紡がれた言葉に、一瞬にして期待を打ち砕かれてしまった。
絶望的な展開に、自然と顔が引き攣ってしまう。
「えっ…と、なんのことでしょう?」
「あ、俺ら初対面設定なんだっけ?それとも本当に俺のこと忘れたとか?だったら思い出させてやろうか、オスゴリ…」
“ラ”の文字が出る前に、咄嗟に桜佑の腕を掴んだ。そのまま思い切り引っ張って、急いでオフィスの出口に向かう。
「あら大変、日向リーダー髭の剃り残しがあるみたいですよ?今すぐ御手洗に案内しますね」
憎しみを込めながらつらつらと放つ私に、桜佑は「ご丁寧にどうも」と表情を変えず余裕たっぷりに返す。その態度が更に私の怒りをヒートアップさせ、危うく発狂しそうになった。
改心した?そんなわけない。人ってそんな簡単に変われない。もし変われるのなら、私は今頃キラキラのメイクをしてフリフリのスカートを履いていると思うから。
だからこの男も昔のまま。何年経っても天敵は天敵。
この男とこれから一緒に仕事をしなきゃいけないなんてどうすればいいの。こんなの毎日が罰ゲームだ。
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