01.過ちにキス

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「なんで私って分かったの」 トイレではなく休憩スペースに桜佑を連れ出した私は、他の人に見られないよう彼を壁に追い詰める。 「むしろなんでバレてないと思ったのか知りたいんだけど。あの“はじめまして”はウケ狙いかと思ったけど、本気だったわけ?」 「……」 大マジ中の大マジですよ。“はじめまして”の合図で、過去が全てリセットされる予定だったんだから。 「…私に似てるだけで、別の人かもしれないと思わなかったの?」 「思わねーよ。だってお前が同じ会社なのも知ってたし、そもそもこんな背の高い女離れしたヤツ、伊織しかいねえから」 「……」 “伊織” 久しぶりに桜佑にその名前を呼ばれ、ドキリと心臓が跳ねた。普段は“お前”とか“オスゴリラ”を使うから、不意に名前で呼ばれるとくすぐったくなる。 そんな私を余所に、桜佑は「つか人を連れ出す口実が“髭の剃り残し”ってなんだよ」と破顔する。 さっきオフィスで見たのとはまた違う笑顔に、不覚にも目を奪われてしまった。 もう完全に桜佑のペースだ。 「でもなんか安心したわ。昔と変わらずオスゴリラのまんまで」 「それ、皆の前では禁句だからね。ていうかいい加減その呼び方やめてよ。あんたの脳みそは小学生でストップしてんの?」 「…まぁ、ある意味そうかもな」 「はい?」 意味深な言葉を呟く桜佑に、思わず眉を顰める。 すると透かさず、その皺の寄った眉間目掛けてデコピンが飛んできて、「いてっ」と小さな悲鳴が漏れた。 「てことで、これからよろしく頼むぞ俺の部下」 「~~~~っ!」 私の横をすり抜ける間際、こっちを見下ろしながらニヒルに笑う桜佑と目が合った。 ──こんな上司、絶対嫌なんですけど?!
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