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「佐倉さん、今日は一段とお綺麗ですよね」
「……」
「あ、課長。またハンカチ落ちてますよ」
勝ち誇った顔で課長にハンカチを渡す川瀬さん。それをおずおずと受け取った課長は、まだ私が“佐倉くん”だということを受け入れられないのか、口を開けたまま固まっている。
「佐倉くん…だったか。いや、うん。そんな気はしてたんだが…」
私の頭のてっぺんから足の爪先まで、課長は何度も視線を動かしながら嘘を吐く。そこにいつもの勢いはない。
その様子を見て思わず苦笑浮かべる私に、川瀬さんが横からツンツンと脇腹をつついてくる。
「佐倉さん、きっと今なら何も言い返してこないですよ」
「…え?」
「何か言ってやりたいことはないですか?普段の怒りをここでぶつけてやりましょう」
川瀬さんのブラックな部分を、初めて見たかもしれない。
私に耳打ちしてくる彼女の目は、意外にも本気だった。
「別に私は…」
今更課長に言いたいこともなければ、理解してもらいたいとも思わない。むしろ角が立たないようにずっと我慢してきたから、これからだって…。
いや、そうやって私が何もしないから、この間も桜佑が庇ってくれたんじゃないか。今だって、川瀬さんにだいぶ助けられている。
これからも守られるだけの女でいるつもり?…ううん、私は変わるって決めたんだ。背中を押してくれる人達のためにも。
「…課長、」
もうこの人に、これ以上男扱いさせてやらないんだから。
心の中でそう訴えながら、意を決して口を開いた──その時。
ふと会場の入口付近が視界に入り、そこにいた人物を捉えた瞬間、息を呑んだ。
背が高いだけでなく、顔が整っているからよく目立つ。
伊丹マネージャーと並んで入ってきたその男は間違いなく桜佑で、普段とはまた違うスーツ姿に、思わず目を奪われた。
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