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もしかして今の、聞かれてた?
なんだか無性に恥ずかしくなって、かぁっと顔が熱くなる。未だ笑いを堪えている桜佑を見て、もう少しカッコイイ台詞を言えば良かったと後悔した。
「佐倉さん、最高です」
けれど隣にいる川瀬さんは、親指を立てながら「スッキリしましたか?」と尋ねてくる。それに対しこくりと頷くと、川瀬さんは満足気に微笑んだ。
結局課長には1ミリも伝わらなかったし、彼は反省するどころか私や川瀬さんのことを舐め回すように見ているけれど、なんとなくスッキリ出来たし、これで良かった…のかな?
それよりも早く、桜佑と話がしたい。少しだけでもいいから、ふたりきりになれるチャンスが欲しい。
そんなことを考えていると、タイミングがいいのか悪いのか、伊丹マネージャーが気だるそうに「ちょっと喫煙所行ってくる」と桜佑に告げて、ふらっとどこかへ行ってしまった。
突如ひとりになった桜佑を見て、今がチャンスでは?と思ったのも束の間。桜佑の方から近付いてきたかと思うと、私の目の前で背を向けて立ち止まり「課長」と落ち着いた声で、鼻の下を伸ばしている男を呼んだ。
「もしかして、うちの部下をいじめてたりしないですよね?」
「え、まさか」
長身の桜佑に見下ろされ、首をぶんぶんと横に振りながら、少し焦った声で返事をする課長。
「私がこんな綺麗な女性達を、いじめるわけがないだろう?」
普段は川瀬さんしか眼中にないくせに、わざとらしく“女性達”と言った課長は、目尻を下げながら「いやー、ふたりとも本当に綺麗だ。日向くんもそう思わないかい?」と同意を求める。
その言葉に、桜佑の眉がピクリと反応したのが分かった。
「綺麗…ねぇ。調子いいことばっか言って、じろじろ見てんじゃねえぞエロガッパ」
「ん?何か言ったか?」
いやもう桜佑さん!心の声が漏れてる!
桜佑の口から出た悪口に、思わずヒヤッとしたけれど、どうやら課長の耳には届いていないらしく、ほっと安堵の息を吐いた。
私が偉そうに言えることじゃないけれど、頼むから会社のパーティーで喧嘩はやめてほしい。愚痴を言う時は、せめてモスキート音でお願いしたい。
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