09.恋心にキス

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「いや、課長の仰る通りだなーと思いまして」 桜佑がさらりと嘘を吐いて誤魔化すと、課長は満足気に微笑んだ。 「ははは、そうだろう。特に佐倉くんにはびっくりしたんじゃないかい?いつもと雰囲気が違うから、私は全く気が付かなかったよ」 「へぇ、僕はすぐに分かりましたけどね」 「いやーほんと見違えるほど綺麗になって。佐倉くんもやれば出来るんだなあ」 「……」 なぜか上から目線の課長に若干イラっとしたけれど、それよりも桜佑がまた口を滑らすんじゃないかという方が気になって、咄嗟に彼の袖を軽く引っ張った。 チラッと桜佑の横顔を確認すると、案の定笑顔が引き攣っている。課長を見下ろす目が、笑っているようで笑っていない。 そんな彼に気付いていない課長は、呑気に「いつもこれくらい可愛くして来てくれればいいのに」と続けるから、また一歩課長に詰め寄った桜佑を見て、思わず息を呑んだ。 「課長、こないだの忠告をお忘れになっていませんか?」 「…え?」 「ハラスメント発言。ご自身は褒めているつもりかもしれませんが、それもセクハラになったりするんでね。そういう発言は控えた方が賢明かと思いますよ」 「お、おお…」 「綺麗な女性陣を見てテンションが上がる気持ちは男として共感出来ますけどね。せっかくのパーティーなんで、穏やかに楽しみましょうね、課長」 ぽんっと課長の肩に手を乗せて、彼の耳元でにっこりと微笑んだ桜佑。 殴りかかるんじゃないかとヒヤヒヤしたけど、さすが頭の切れる男は違うなと、思わず感心した。 課長はバツが悪くなったのか、苦笑しながら「私は楽しい雰囲気にしたかっただけなんだ」と言い訳がましい言葉を呟くと、踵を返し、逃げるようにどこかへ行ってしまった。
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