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「日向リーダーありがとうございます。最後の課長の顔を見て、スッキリしました」
川瀬さんが口を開くと「彼もなかなかしぶといな」と桜佑は苦笑する。そんな上司の顔をする桜佑を見て、ハッとした。
課長がいなくなり、やっと桜佑と話が出来ることに心の中で喜んだのはいいけれど、冷静に考えると、いまの私と桜佑は、ただの部下と上司。
隣には川瀬さんがいるし、それどころか周りには沢山の社員がいるため、個人的な話が出来る雰囲気ではない。
この距離感が、もどかしい。
「…日向リーダー」
だからといって全く声を掛けないのも不自然なため、控えめに声を掛けると、その切れ長の目がゆっくりと私を捉えた。
改めてじっと見つめられ、とてつもなく羞恥を覚えたけれど、平静を装いながら「ありがとうございました」と紡ぐと、桜佑は優しく目を細めた。
この2週間、桜佑は多忙を極めていたから、こうして彼をそばで感じるのは久しぶりで、目が合うだけでドクンドクンと心臓が波打つ。それを川瀬さんに悟られないよう必死にいつも通りを演じるけど、今日の桜佑が男前過ぎて、直視出来ない。
ていうか、結局また助けられてしまった。ただでさえ今日の桜佑は輝いて見えるのに、そのスマートな行動に、胸がきゅっと締め付けられてしまう。
さっきから、私ばっかり心を乱されている。
「あ、そうだ。日向リーダー、もう準備は終わりましたか?何かお手伝い出来ることは…」
「もう準備は終わったから大丈夫。それより、そろそろクライアントが入ってくる時間になるから、挨拶をきっちり頼みますね」
「承知しました」
桜佑と川瀬さんのやり取りを聞きながら、私はただただ桜佑に見惚れていた。
それなのに、桜佑はいつも通り落ち着いているから、なんだか悔しい。
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