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日向 桜佑の歓迎会が始まってから、もうすぐ2時間。会社の近くにある居酒屋の座敷席を貸し切って行われているこの会は、開始してからずっと盛り上がっている。
「日向リーダー大人気ですね」
そんな中、隣に座っている川瀬さんがカクテルを飲みながらボソッと呟いた。
「…そうみたいだね」
「佐倉さんは日向リーダーとお話されました?」
「いやまぁ私はいいかな。話そうと思えば職場でいつでも話せるし」
「確かに今はあの中に入るの無理そうですもんね」
川瀬さんの言う通り、この会が始まってからというもの彼の周りには常に人が集まっていた。
少し離れたところで見ている女子社員達が、いつあの中に入ろうかとタイミングを計っている。
桜佑の隣に座っている伊丹マネージャーが、桜佑のグラスが空になる度に新しいお酒を頼んでいるけれど。あの男、かなりの酒豪なのか顔色ひとつ変えない。そこも悔しい。
「でも日向リーダーって凄いですよね。最初は怖い人なのかと思いましたけど、周りに溶け込むのも早いし、指示は的確だし」
「……」
「ずっと契約取れなかったあの企業の件も、日向リーダーのお陰でアッサリ進んで…ほんと頼りになります」
私と桜佑の関係を知らない川瀬さんは、曇りなき眼で彼を褒めちぎる。それを素直に頷けない自分が、なんだか少し嫌になった。
分かってる。昔を引きずっているのは私だけ。
公私混同するなんて社会人として失格だ。桜佑は私のことなんて気にも留めず仕事を着々とこなしているというのに。
私も早く彼の存在を認めて、良い仕事仲間として接することが出来たらいいのだけど。桜佑が来てからというもの、私の心はずっと落ち着かない。
それを自分でもどうすればいいのか分からないでいた。
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