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「それにしてもオフィスにまたイケメンが増えて嬉しいわぁ」
うふふ。と、突如柔らかい笑みを零しながら口を開いたのは、川瀬さんを挟んで隣に座っていたベテラン営業事務の煮区厚さんだ。
歳は確か40代後半で、温厚でポッチャリ体型の煮区厚さんは、枝豆をつまみながら「眼福♡」と呟く。その視線の先には、伊丹マネージャーと談笑する桜佑の姿があった。
「営業課1のイケメンはもちろん今も変わらず佐倉さんだけど、日向リーダーも負けないくらい男前ね」
「いや、私は全然負けてもいいんですけど」
「日向リーダー、こないだのプレゼンの時のオールバックも良かったわ。彼の髪型はイケメンしか似合わないもの」
「煮区厚さんよく見てますね」
「ちなみに伊丹マネージャーもパッと見だらしないけど、メガネを外してあのボサボサの髪を整えた時はとってもカッコイイのよ?そしてオフィスのマドンナ川瀬さんもいて、うちの営業課は顔面偏差値が高いわね。ほんと幸せ」
うっとりした表情で語る煮区厚さん。彼女には、入社した時から“イケメン”と言われ続けているけれど、正直私としてはそろそろその称号を他の人に譲りたい。
「佐倉さんは女性社長のクライアントから絶大な人気を誇ってますもんね」
「川瀬さんも乗っからなくていいから」
透かさず突っ込むと「だって私も佐倉さんのファンですから」と屈託のない笑みを向けられ、思わず「可愛いなあ」と零してしまった。
私は川瀬さんに甘い。だって顔だけじゃなくて、仕草も周りへの配慮も接し方も、何もかもが可愛いんだもん。
それでいていつもトレンドをおさえている彼女は身に付けている物もオシャレで、後輩だけど私の憧れでもある。
それなのに、自分は女性らしくなるどころかどんどんイケメンのイメージが植え付けられていることに、少し焦りを覚えた。
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