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何も無かったと言えば嘘になるかもしれない。付き合いの内容自体は確かに何も無かったけれど、私にとってある意味忘れられないものになったから。
現実を突きつけられたというか、なんというか。全てなかったことにしようとしても、胸の奥でしこりになってずっと残ってる。
私が何もかもを諦めているのは、このトラウマが原因だったりもするけど…まぁこの男には関係のない話だ。
「てかそれとこれと何の関係があんの」
それにしても顔が熱い。桜佑と恋バナなんて、らしくないことしたからだ。
しかも未だに桜佑の表情は変わらないから調子が狂う。これならいつもみたいにからかわれた方が何倍もマシ。
「私の話なんかやめて、もっと他の──…」
「そういうので女って綺麗になるっていうだろ」
「…そういうのって、恋愛でってこと?」
首を縦に振る桜佑にやっぱりふざけてる空気はなく、戸惑いながらも「そうらしいね」と返す。どうやら彼は、女らしくなりたいなら恋をしろと言いたいらしい。
その情報は私も知ってる。だからあの時変われると思った。でもそれは、きっと相思相愛で身も心も幸せで満ち溢れている人の話だと思うから、そもそも女として見られない私には無縁の話。
「その恋愛が出来たら苦労しないっての」
「だったら俺としてみたらよくね」
「よくねえ」
危うくグラスを倒すところだった。驚きすぎて口調が荒れた。
やっぱりこの男、真剣な顔してるけどふざけてたわ。
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