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「なんか今日の佐倉さん、様子がおかしいですね」
おかしいのは私じゃなくて、日向 桜佑の頭の中だよ。と心の中で呟きながら、ふと川瀬さんの肩に視線を移す。と、そこには指先に乗るくらいの小さな蜘蛛がうろちょろ動いていた。
「川瀬さん、肩に蜘蛛が乗ってる」
「え、やだ、うそ、どこですか?!」
「そこそこ」
「ひっ!ちょ、無理です、私足がいっぱいある生き物苦手なんです」
「なにそれ可愛い。待ってね、今とってあげるから」
二日酔いで重い身体をのそりと動かし、蜘蛛を包み込むようにそっと手に取とると、そのまま窓を開けて外に逃がした。
こんな小さな虫を怖がるとか、ほんと何から何まで可愛い人だ。
「ありがとうございます、助かりました」
ほっと胸を撫でおろした川瀬さんが、お礼にどうぞとバッグから取り出したチョコレートを私に差し出す。こういうちょっとしたプレゼントを用意しているところも女子力の塊。
しかもこのチョコ、1粒100円くらいする私でも知っている有名なやつ。これが女子なんだよなあ。
「さすが佐倉くん、男前だねー」
一連の流れを見ていた総務課の課長が、わざわざこちらに近付いてきて口を開く。面倒だと思いつつも「どうも」と軽く会釈すると「君たちは本当にカップルみたいだな。羨ましいよ」と褒めているのかもよく分からない言葉を投げかけられた。
私達が社内でカップル扱いされるのはよくあること。川瀬さんと仲がいいのは事実だし、そう言われても普段は特に何とも思わないけれど、この課長の口から出る言葉にはなぜか悪意を感じてしまう。
「私には勿体ないですよ」
「何言ってんの、とってもお似合いだよ。でもこのままだと、佐倉くんは彼氏が出来そうにないね?」
お節介オヤジめ、何時代の人間だよ。心の中で悪態をつく。
けれどあくまでも平静を保ち「ご心配なく」と一言伝えるため口を開こうとした、その時。
「課長、何か勘違いされてるみたいですけど」
突如後ろから聞こえてきた声に、 思わず口を噤んだ。弾かれたように振り返れば、今朝会ったばかりのあの男がゆるりと口角を上げながら立っていた。
あの笑顔、なんか嫌な予感が──…
「佐倉にはもう永遠の愛を誓った婚約…」
「ちょおおっと!日向リーダー大変!人前に出られないくらいの激しい寝癖が残ってますね?すぐにトイレへ案内します!」
この男、油断も隙もない!
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