01.過ちにキス

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別にこうなりたい訳じゃない。 それどころか、そろそろ普通の女性らしくなりたいと思っている。 母は私を“男”として育てているつもりだからか、“早く彼氏を作って結婚しなさい”なんて一度も言ったことはない。むしろ“変な男に捕まるくらいなら結婚なんてしなくていい”って言うくらいだ。 でもいつまでも親の言いなりになっているわけにはいかないし、自分なりに変わりたいと思っているけど…鏡を見ると、自信を失う。 結局、自分を変える勇気がないのだ。 「(……髪、伸ばしてみようかな)」 窓に映る自分を見ながら、ロングヘアになった姿を想像してみた。けど、 ──うん、きっと似合わない。 はぁ、と二度目の溜息を吐いたと同時、電車が駅に止まった。 「(ダメだ。お酒のせいか変なことばっか考えちゃう)」 頭を切り替え、次は仕事のことを考えながら降車する人の波に乗る。そうしながらも、ふと隣の女性を見て、背が低くて可愛いな、と羨ましく思ってしまった。 だから全く気が付かなかった。この時の私は自分のことでいっぱいいっぱいだったから。 「───伊織?」 ある人物が、私に視線を向けていたことに。
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