13763人が本棚に入れています
本棚に追加
/309ページ
別にこうなりたい訳じゃない。
それどころか、そろそろ普通の女性らしくなりたいと思っている。
母は私を“男”として育てているつもりだからか、“早く彼氏を作って結婚しなさい”なんて一度も言ったことはない。むしろ“変な男に捕まるくらいなら結婚なんてしなくていい”って言うくらいだ。
でもいつまでも親の言いなりになっているわけにはいかないし、自分なりに変わりたいと思っているけど…鏡を見ると、自信を失う。
結局、自分を変える勇気がないのだ。
「(……髪、伸ばしてみようかな)」
窓に映る自分を見ながら、ロングヘアになった姿を想像してみた。けど、
──うん、きっと似合わない。
はぁ、と二度目の溜息を吐いたと同時、電車が駅に止まった。
「(ダメだ。お酒のせいか変なことばっか考えちゃう)」
頭を切り替え、次は仕事のことを考えながら降車する人の波に乗る。そうしながらも、ふと隣の女性を見て、背が低くて可愛いな、と羨ましく思ってしまった。
だから全く気が付かなかった。この時の私は自分のことでいっぱいいっぱいだったから。
「───伊織?」
ある人物が、私に視線を向けていたことに。
最初のコメントを投稿しよう!