01.過ちにキス

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・ 「佐倉(さくら)さんおはようございます」 「おはよー」 「早速ですが、どちらか選んでください」 次の日の朝。自席についた私のところへ、2年後輩の川瀬(かわせ)さんがやって来た。その両手は菓子箱で塞がっていて、それをずいっと私の前に差し出してくる。 「伊丹(いたみ)マネージャーが出張先でお土産を買ってきてくださったので、いま皆さんにお配りしてて…」 「あーなるほど」 川瀬さんの右手にあるのはマカロンの入った箱、反対の手には煎餅の入った箱。マネージャーらしいチョイスだな、なんて思いながら、マカロンと煎餅交互に視線を移す。 「どっちも美味しそう」 「そうなんですよね。でもどちらかというとマカロンがオススメです。有名なお店のものなので」 「そうなんだ、さすが詳しいね。川瀬さんはマカロンにしたの?」 「いえ、私は余った方でいいので、まだ…」 なんて出来た後輩なんだろう。美人で気配りも出来て、マカロンの有名店まで知っている。私とは正反対で、女子力の塊だ。 よし、ここはマカロンを選んでおいて、もし川瀬さんに煎餅しか選択肢がなかった時は私のマカロンを──… 「川瀬ちゃん、佐倉くんはマカロンみたいな女の子っぽいもの、きっと好きじゃないよ。はい、佐倉くんどーぞ」 マカロンに手を伸ばそうとした時だった。 突如聞こえてきた声に動きを止めると、横から伸びてきた手が煎餅を掴んだ。 私に煎餅を差し出してきた総務課の課長が、鼻の下を伸ばしながら川瀬さんを捉える。オフィスでマドンナ的存在の川瀬さんは、薄らハゲ課長のお気に入りなのだ。 そして私の扱いはいつもこう。女として見られていない。この人の場合、佐倉くん(・・)という呼び方にも悪意を感じる。 やっぱ今更女性らしくするなんて、私にはハードルが高すぎる。
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