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「佐倉さんおはようございます」
「おはよー」
「早速ですが、どちらか選んでください」
次の日の朝。自席についた私のところへ、2年後輩の川瀬さんがやって来た。その両手は菓子箱で塞がっていて、それをずいっと私の前に差し出してくる。
「伊丹マネージャーが出張先でお土産を買ってきてくださったので、いま皆さんにお配りしてて…」
「あーなるほど」
川瀬さんの右手にあるのはマカロンの入った箱、反対の手には煎餅の入った箱。マネージャーらしいチョイスだな、なんて思いながら、マカロンと煎餅交互に視線を移す。
「どっちも美味しそう」
「そうなんですよね。でもどちらかというとマカロンがオススメです。有名なお店のものなので」
「そうなんだ、さすが詳しいね。川瀬さんはマカロンにしたの?」
「いえ、私は余った方でいいので、まだ…」
なんて出来た後輩なんだろう。美人で気配りも出来て、マカロンの有名店まで知っている。私とは正反対で、女子力の塊だ。
よし、ここはマカロンを選んでおいて、もし川瀬さんに煎餅しか選択肢がなかった時は私のマカロンを──…
「川瀬ちゃん、佐倉くんはマカロンみたいな女の子っぽいもの、きっと好きじゃないよ。はい、佐倉くんどーぞ」
マカロンに手を伸ばそうとした時だった。
突如聞こえてきた声に動きを止めると、横から伸びてきた手が煎餅を掴んだ。
私に煎餅を差し出してきた総務課の課長が、鼻の下を伸ばしながら川瀬さんを捉える。オフィスでマドンナ的存在の川瀬さんは、薄らハゲ課長のお気に入りなのだ。
そして私の扱いはいつもこう。女として見られていない。この人の場合、佐倉くんという呼び方にも悪意を感じる。
やっぱ今更女性らしくするなんて、私にはハードルが高すぎる。
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