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道路に真っ赤な花びらが散ると同時に、彼女は俺の居場所をかすめ取って行った。
――いや、正確には彼女の存在が一気に巨大なものになってしまったのだ。
はじめから分かっていたはずなのに。彼女と俺の立場には圧倒的に差があったということを。
夕方五時。
あの日から彼は尖った葉の野いちごの大きな白い花――この辺りにしかないバライチゴ――が咲く川岸に座り、いつも虚ろな目を夕日に向けていた。
ゆるく束ねられた、光を吸い込むような黒髪からこぼれた一房の後れ毛が昏い陰を作る。言葉を話せたら、何か俺にもできることがあるかもしれないのに。遠くから見つめながら、俺は歯噛みしていた。
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