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しかし、その父親から放たれたのは予想外の言葉だった。てっきり俺が彼女にスト••••••『観察』しているのを咎めるかと思っていたから、俺は応接間に入るや否や力が抜けた。咎められたら消すつもりでいたけれど、まぁ良いか。
『融資を••••••頼みたいのです』
俺の差し出した名刺でさらに恐怖を感じ始めたのか、彼は口を震わせながら言う。『融資』••••••金を援助する事。ヤクザに頼むとか、バレたら叩かれるだけじゃ済まないだろうに。
『あまり公には言っておりませんが、大手がさらに進出し始めて、近衛製薬は傾きつつあります••••••。代々続くこの会社を潰したくは無いのです••••••』
『金額は?』
『月々500万円••••••いや、300万円あれば何とか保てます』
『俺は幹部だから勝手に決めれはしないけれど、対価ってある?それ次第で組長に伝えてあげるよ』
押し黙った彼は、ハンカチで汗を拭くと意を決したかのような顔付きになる。その仕草は演技臭い。何を言うのかと白けて見ていたが、俺の思考の枠を飛び越えた。
『む、娘を••••••娘の瑞希を貴方に差し上げます』
『は?』
頭がイカれたのか?対価なら、この企業の株を全て組に売るとか、合法薬物を作って寄越すでも良いのに。••••••自分の娘を、瑞希ちゃんを俺にあげるだと?流石の俺も拍子抜けした声を出してしまう。
此奴••••••いやこの企業は、自分の子供を簡単に捨てられるのか。融資を貰いたいが為に。
『いいよ、俺が有難く瑞希ちゃんを貰う。ただし縛りを設けよう。••••••あの子は世間知らずだから、一度危険な目に遭わないと分からない。だから、彼女が男に手を出されそうになった時••••••俺は彼女を貰い、同時に融資を開始する。これでどう?』
俺は出されていた口を付けていない、とっくに冷めているコーヒーを目の前の男にぶちまけた。黒い雫を滴らせながら、何度も何度も俺に礼を言ってくる。それに笑顔で答えた。
『安心してよ。俺は瑞希ちゃんをこの世で1番愛してるからね、こんなクソみたいな家に戻らないように••••••囲い込んで、愛するから』
反吐が出る程の金の亡者だった瑞希ちゃんの父親との縁は、この時をもって俺が強制的に切る形になった。
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