セピア色のアルバム

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セピア色のアルバム

 彼女からの電話で、私は遠いあの日の約束をはっきりと思い出した。  未熟だった日々を終え、遅れて大人になった私は今、後悔をしている。  彼女が東京に行ってから、心の中のアルバムは新しい写真ばかりを綴り、彼女とのアルバムは心の奥底へと眠っていった。  私は彼女に何も言えなかった。  彼女との約束を思い出すには、あまりにも遅すぎた。  私が彼女に何と声を掛けても、彼女の歩む道は変わらない。  私は彼女に、震える声で謝り、そして幸せになってねと言った。  彼女は電話越しに泣いていた。  私は限られたこの時間で、彼女と想い出を振り返る。  彼女との時間も終わりに近付いたころ、彼女は私に言った。 「初めてキスをしたのは、あなただった」  私はうんと返事をした。 「初めて心から好きになったのは、あなただった」  私は頷いた。 「初めて心から忘れられない人になったのは、あなただった」  私は震えていた。 「もし、二人が生まれ変わったら、今度はあの日の約束を叶えようね」  私は声を出して泣いていた。  彼女との電話を終えると、私は一人、暗い部屋でうずくまっていた。  何度後悔をしても、何度振り返っても、そこには彼女はいない。  そこにいるのは幼い頃の私だけ。  思い出ばかりに縋り付き前を向くことができない私は、やがてセピア色のアルバムを抱え眠りについた。
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