白色のフォトフレーム

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白色のフォトフレーム

 彼女が自分の人生を歩み始めてから一年後、私は東京の会社を辞め地元へと帰っていた。  東京での仕事は、何もない私には辛いだけだった。    私は地元に帰ってきて数日後、彼女に一通だけメールを送った。 ――明日、あの日あの約束をした公園で待っています。  いまさら、彼女に会ってどうするのか?  彼女は私の知らない誰かと幸せに暮らしている。  でも、最後に一度だけ会いたいと思った。  返事はもちろん、彼女は公園に来ることは無い。  それでも私は僅かな希望を胸に、約束の場所へ向かう。  この公園も、しばらく来ない間に大分変っていた。  公園の脇に生えていた雑草は綺麗に刈り取られ、花が植えられている。  錆びついていたブランコは綺麗に修繕され、新しい遊具も設置されている。    彼女と初めてキスをした、あのベンチだけは昔のままだった。  私は少しずつ日が暮れていくのを見守りながら、誰も来ない公園のベンチに座っていた。    彼女はもう、来ない。  私は諦めて立ち上がろうとした時、公園の入り口に彼女が立っていた。    彼女の腕の中には、私の知らないちいさな子どもが眠っていた。    私は小さく、久しぶりと声を掛けると、彼女も久しぶりと笑った。  彼女は結婚をして子どもが生まれ、幸せに暮らしているという。  私は彼女の幸せそうな顔を見て、少し安心した。  ベンチに座り、彼女と少しだけ話をする。  あの頃に戻ったようで、私は涙をこぼした。  日も完全に暮れ、彼女はそろそろ帰らなきゃと言った。  私も、そうだねと返事をして立ち上がろうとする。  その時、彼女は私の腕を掴み、そして静かに唇を重ねた。 「これで、本当にさよならだね……」  彼女は淋しそうに言う。  私は、今度は絶対に約束を守るからと言って、また涙を流した。  彼女は、ちいさな子どもを抱きかかえながら彼女を待つ場所へと帰って行った。  彼女は、最後まで涙を流さなかった。  それはきっと、私が今日流した涙と同じ涙を、あの日、一人流していたからだろう。  私は涙をぬぐい歩き出す。  あの日の想い出は、今日、淡い写真として記憶へと変わった。    ――心の中の白いフォトフレームとともに。  
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