第1章 悪戯好きの鬼

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俺は闇カジノの今日の開催場所である寂れた商店街に向かっている。 開催は不定期で、場所も数ヵ所あるカジノは今から行く商店街と、あと二つ路地裏と山奥にある廃墟だ。 だいたい開催されるのは商店街だが、俺の気分によって路地裏だったり廃墟だったりになる。 今日もシャッターが降りた商店街の奥に進む。 奥に進むにつれタバコの匂いが強くなり、カジノにつくと煙で充満していて視界が悪い。一応、換気扇は回させているがそれでも追い付かないみたいだ。 今日はお得意様が来ているから余計だろう。 奥のVIProomへ向かう俺にバカラを楽しんでいた女が話しかけてきた。 「ねーえ、オーナー。抱いてよぉ」 こういう類いの女はここには山ほどいる。 この女は目が完全にイッているから、薬でもやってるんだろうな。 「無理」 薬を使ってる奴らは抱かない。これは俺のポリシー。 薬を使って思ってもいないことを口に出すようになっちまうから、抱かない。本音とは限らないからな。 VIProomの扉をノックすると中からスーツを着た人が開けてくれた。 「山田さん、こんばんは。」 山田結翔。お得意様の一人で、山田組の次期組長候補の一人。 そして、このカジノを始めこの街一体を管理している人だ。 「相変わらずだな」 俺と同い年と風の噂で聞いたことがあるが、本当に同い年とは思えないくらい山田さんは落ち着いている。 「山田さんもお元気そうで。今夜はどう言ったご用件で?」 「用がないって言ったら?」 「……」 「はは、嫌そうな顔。俺はここでゆっくり酒飲んで帰るから、お前は楽しんでろよ。」 「いや、俺も気が変わりました。ご一緒させてください。」 こういう時の山田さんは誰かと一緒に話していないと落ち着かない。長い付き合いだから、それくらい分かるようになった。 そして、多分組長候補に関係する話なんだろう。 「悪いな」 「いえ。そこの君、バーテンダーからお酒をもらってきてくれ。俺はモヒート、山田さんは?」 「スクリュードライバー」 山田さんのオーダーを聞いたスーツさんはカジノにあるバーに酒をとりに向かった。 このroomには俺と山田さん、二人だけになった。 「気を遣わせたな」 「いえ、話せることなら今話した方がいいんじゃないですか?護衛がいないうちに。」 そう言うと山田さんは微妙な表情をした。 この短時間じゃ話しきれないんだろう。 「そうそう、最近殺人事件があったらしいですね。確か…」 「隣町の四丁目の交差点、だったか」 記憶力が良いな。 「はい。物騒ですよね」 そう俺が言うと山田さんは「ぷっ」と吹き出して笑った。 「…何ですか」 「いや。闇カジノを経営しといて、殺人は物騒とか…はは、可笑しいやつだ」 まだ笑う山田さんに冷たい目線を向けていると、さっき出ていったスーツさんが注文したものを持って戻ってきた。   「ありがとう」 その人からお酒を受け取り、一口飲む。 すると、ミントの爽やかな香りが鼻を抜けた。 このカクテルは飲みやすくて、こういう話し合いとかに適している。 山田さんも喉にスクリュードライバーを流し込んでいた。 スクリュードライバーは、名前はかっこいいがウォッカにオレンジジュースを加えたカクテルだ。 「ふぅ…あー、笑った笑った。」 「…そんなに笑わなくても良いじゃないですか。」 「悪かったな。んで、なんの話だったか…」 酒を飲み干した山田さんはグラスをテーブルに置いた。 「隣町の四丁目の交差点で起きた殺人事件の話でしたよ。」 なぜ、四丁目の交差点は覚えられて、さっき話していたことをすぐ忘れるのか。 「あーそうだったな。…実はその殺人鬼がここらのやつじゃねぇんだ。」 「といいますと、他県だと…?」 山田組の管理区はカジノがある県とあと少しはなれたところにある別の県だ。このカジノの隣町である殺人現場は勿論山田組の管理下だ。 「あぁ。そこで、このカジノの総支配人であるお前の出番だ。このカジノには元警察官や極悪人も多く訪れている。そいつらからなにか情報がないか探ってほしい。探るのは俺達もするが、総支配人のお前になら本当のことを話してくれるかもしれない。お前は客と良い関係を築いているからな。」     出口で山田さんを見送りながら、大変なことを押し付けられたなとめんどくさい気持ちになった。 そもそも、カジノ(ここ)はゲームを楽しむ場所であって、決して捜索する場所ではない。 というか、今回の事件は警察が動けば良い話で、山田組が出てくるような話ではない。…と言うことは、警察が山田組を頼ったと言うことか? どちらにしろ、めんどくさいことに巻き込まれたものだ。
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