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何でも
「ねえ、君たち。カルサをあんまり信用しない方がいいよ」
突然現れたそいつは嫌な笑顔を浮かべて言った。
ペリドは困惑に顔を歪めた。
そいつの姿は、すぐ隣にいるカルサと瓜二つだった。
カルサはいつも通りの無表情のまま、青白い肌の少女を横に抱き抱えながら、ただじっと、同じ顔のそいつを見つめている。
「カルサは、君たちにとって、とっても危険な存在だと思うけどなあ」
そいつが親友であるカルサとそっくりでなくとも、そいつが唐突に妙なことを言わなくとも、元々ペリドは非常に困惑状態にあった。
壊滅まで追い詰められたペリドの隊。
駆けつけたカルサの隊も、戦える者は数えられる程しかいなかった。
辺りにはごろごろと仲間の死体が転がり、血なまぐさい空気が漂っていた。
そんな時に舞い降りた一人の少女。
長み髪をなびかせ、裾の長い独特な服をはためかせ、その少女は地上へと足をつけた。
その瞬間、彼女を中心に地面が眩い光を帯び、埃のように小さな光の粒が大量に舞い上がった。
すると、確かに息絶えていたはずの戦士たちが、次々と目を覚まし始めたのだ。
ペリドや他の生存者は、その奇跡に瞳を潤わせ歓喜した。
しかし、その少女は皆から礼の言葉を掛けられる前に、突然眠るように気を失ってしまったのだ。
否。ルビーが直ぐに駆け寄ったその瞬間には、彼女は既に息を引き取っていた。
突然現れ、奇跡を起こし、死んでしまった得体の知れないその少女を、カルサは何も語ることなく優しい手つきで抱き上げた。
憂いを帯びた、愛しい者を見るかのような眼差しのカルサに、誰も何も声をかけられなかった。
しばらくの沈黙の後、とうとうカルサが何かを口にしようと息を吸い込んだ。
丁度その時だ。
カルサの顔をしたそいつが忽然と現れたのは。
「カルサはね、君たちよりもポフィラが大切なんだ。ポフィラの願いならなんだって叶えようとするんだ」
カルサの顔で、カルサとは全く異なる表情で、そいつは高らかに言う。
「もし、ポフィラが君たち全員を、皆殺しにしろってお願いしたら、カルサは躊躇なくそうするんだよ」
上機嫌に、高揚した様子で、そいつは笑った。
ケラケラと笑いながら、戦友であり、親友であるカルサの信用を叩き落とそうとするそいつの言葉に、ペリドは激しい怒りを覚える。
カルサが仲間を殺す?
有り得ない。
例え、愛する人間がそうしろと命じたとしても、誇り高き最高指揮官であるあのカルサが、部下や戦友、師や親族を手にかけるなど、全くもって起こり得ない。
ペリドは絶対的な信頼を持って、隣にいるカルサに視線を向けた。
だが、カルサが吐き出した言葉は、
「確かにその通りだ」
ペリドの心を裏切るものだった。
「俺は、こいつが望むのなら、そこにいる親友のペリドも、師であるイオラも、従姉妹のアンデも、補佐のトルマも、躊躇いなく殺す。それだけじゃ足りないとあれば、この世界の人間全てを、皆殺しにする」
耳を疑った。
淡々と、カルサの口から裏切りの言葉が零れ落ちる。
「ほら、ね?」
カルサにそっくりなそいつは、勝ち誇ったように、憎たらしい笑みを漏らす。
ペリドは湧き上がる絶望に襲われ、知らずのうちに拳を強く握りしめた。
上機嫌にステップを踏むあいつの言葉が、僅かに真実味を帯びてきた時。
「だけど、安心しろ。ペリド」
カルサは、らしくない微笑みをペリドに向けて、掠れた声で言った。
「ポフィラは、俺が困る願い事は、決して口にしない」
偽物のカルサが、ぴくりと目元を痙攣させた。
カルサは愛おしげに、腕の中の少女に視線を落とす。
彼女がポフィラであることは、その場の誰もが理解した。
「だから、安心してくれ。ペリド」
カルサは、囁くようにそう言った。
カルサは、仲間を殺さない。
ポフィラが、それを願うことはないから。
ペリドは思う。
果たしてそれは、安心していい言葉なのだろうか、と。
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