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泰生の真意
泰生の車は外車のセダンだった。帰りたくて仕方なかったはずなのに、帰路についてしまえば、もっと泰生と二人でゆっくりしたかったとも思ってしまう。
よく考えてみれば、今まで二人きりになることなんて今までなかった。必ず周りに誰かがいたし、だからこそお互いの気持ちを確認するタイミングもなかったのだろう。
泰生がどういうつもりで別荘に連れてきたのかはまだ聞けていなかったが、それでも何の邪魔も入らない空間では、ようやくお互いに素直になることが出来た。
「泰生は今どこに住んでいるの?」
「病院近くのマンションを借りてる」
ということは、あの修羅場のあった場所の近くってことか……そう思うと気まずい。部屋に行くたびに思い出してしまいそうだった。
「あっ、そうだ。俺のカバンのポケット」
言われてカバンの中を見ると、恵那のスマホが中に入っていた。
「返すの忘れてた。ごめん」
「大丈夫。あっても見てなかったと思うし」
電源を入れた恵那は、突然届き始めたメッセージやら着信のお知らせに慌てた。しかもそれらのほとんどが不倫相手の名前だった。驚きよりも、怖さの方が勝ってしまう。
「恵那にかなり未練があるみたいだな」
「でも……奥さんがいるのに、どうやったらこんなに連絡出来るの……?」
「浮気用のスマホを持ってるんじゃないか? 隠しておけばバレないだろうし」
あんなことになったのに、メッセージには『愛してる』『また会いたい』などの言葉が並ぶ。私のことを金で買ったとまで言ったくせに、調子が良すぎる。
楽しくて良い人だと思ったのにな……今は気持ち悪いとさえ思ってしまう。
「ちゃんと別れ話をした方がいいのかな……でも奥さんにあそこまで言われたのに、私はもう連絡したくない……」
「恵那は何もしなくていい。とりあえずブロックだけしておけ」
「わかった……」
泰生は恵那のマンションの前に車を停めると、シートベルトを外そうとしている恵那の手を握った。落ち込んでいた恵那は、それだけで元気をもらえたような気持ちになった。
そんなことをされたら離れ難くなっちゃうじゃない……胸が苦しくなって、体は泰生のそばにいたいと疼く。
「恵那、今度お互いの親に挨拶に行こう」
「……早くない?」
「早くない。それに家が目の前だから一日で済むぞ」
少し戸惑ったものの、泰生が真剣に考えてくれていることが嬉しかった。
「わかった。親に聞いてみる」
恵那が頷くと、泰生は彼女に覆いかぶさるようにしながらキスをした。
「……やっと気持ちが繋がったんだ。もっと恵那のそばにいたいのにな……」
「うん……そうだね……」
なんか学生の恋愛みたいで恥ずかしい。でも繋がるはずがないと思っていた気持ちが、ようやく一本の糸になったんだもの。
その時だった。突然車の窓ガラスを叩く音がする。振り返ると、そこには恵那が不倫していた男が、怒りの形相で立っていたのだ。
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