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泰生はスマホを取り出すと、うるさくならないよう廊下に出て父親に連絡を入れる。
「あぁ、父さん? 俺だけど」
『どうした?』
「実は恵那と久しぶりに再会して、意気投合したんだ。せっかくだから別荘に連れて行きたいんだけど、いいかな?」
『おぉ! 恵那ちゃんか! 元気にしてるのかな?』
「あぁ、元気だよ」
『まぁ恵那ちゃんが良いと言うなら、構わないぞ』
「ありがとう」
よし、とりあえず怪しまれずに別荘は確保した。というか、もう少し警戒すべきだろう。うちの両親はどこか抜けている気がする。
電話を切ると、今度は友人に電話をかけた。
『もしもし』
「あっ、佐々木? 足立だけど」
『なんだよ、急に』
「悪いんだけどさ、お前の店の女性物の服と下着の一式を用意して欲しいんだけど。まだ店やってるだろ? 三十分後に取りに行くからさ」
『……お前絶対に悪いと思ってないよな』
「今度酒奢るからさ」
『……三十分後な』
「助かるよ」
佐々木は大手のアパレルメーカー勤務の上、頼まれると断れない良い奴だった。だからこそ頼みやすいのだが。
恵那をベッド診察室に残し、泰生は裏に停めてあった車の助手席のシートを倒し、彼女を運びやすくする。
恵那は一度寝るとなかなか起きないから、たぶん別荘まで寝たままに違いない。
泰生は両頬を叩くと、大きく頷く。
俺が恵那の目を覚ましてやる。どうやるかなんてまだ決まってない。でも恵那には誰からも応援されるような恋をして欲しいんだ。
その相手がたとえ俺でなくとも……。
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