プロローグ

3/3
前へ
/24ページ
次へ
 泰生はスマホを取り出すと、うるさくならないよう廊下に出て父親に連絡を入れる。 「あぁ、父さん? 俺だけど」 『どうした?』 「実は恵那と久しぶりに再会して、意気投合したんだ。せっかくだから別荘に連れて行きたいんだけど、いいかな?」 『おぉ! 恵那ちゃんか! 元気にしてるのかな?』 「あぁ、元気だよ」 『まぁ恵那ちゃんが良いと言うなら、構わないぞ』 「ありがとう」  よし、とりあえず怪しまれずに別荘は確保した。というか、もう少し警戒すべきだろう。うちの両親はどこか抜けている気がする。  電話を切ると、今度は友人に電話をかけた。 『もしもし』 「あっ、佐々木? 足立だけど」 『なんだよ、急に』 「悪いんだけどさ、お前の店の女性物の服と下着の一式を用意して欲しいんだけど。まだ店やってるだろ? 三十分後に取りに行くからさ」 『……お前絶対に悪いと思ってないよな』 「今度酒奢るからさ」 『……三十分後な』 「助かるよ」  佐々木は大手のアパレルメーカー勤務の上、頼まれると断れない良い奴だった。だからこそ頼みやすいのだが。  恵那をベッド診察室に残し、泰生は裏に停めてあった車の助手席のシートを倒し、彼女を運びやすくする。  恵那は一度寝るとなかなか起きないから、たぶん別荘まで寝たままに違いない。  泰生は両頬を叩くと、大きく頷く。  俺が恵那の目を覚ましてやる。どうやるかなんてまだ決まってない。でも恵那には誰からも応援されるような恋をして欲しいんだ。  その相手がたとえ俺でなくとも……。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1146人が本棚に入れています
本棚に追加