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(01)死ぬ理由
爆裂魔法の詠唱を聞いたおれは、勇者を庇い、魔王の前へと走り出た。
次の瞬間、四肢を四散させるような強い衝撃が襲った。数秒、気を失っていたらしく、気がつくと、横たわったおれを、勇者が抱え起こしていた。
頬にぱらぱらと、勇者の涙の温もりが散る。
「しっかりしろ、たにゃ! 頼む……医者を、医者を呼んでくれ……!」
ばかだな、勇者。
泣くな。これでいいんだ。
何度も帰りたいと思ったのに、走馬灯は勇者との想い出ばかりだ。
今ならわかる。おれがどうしてこの世界に召喚されたのか。この瞬間のために、おれは命を繋いできたのだ。勇者を庇い、彼の命を救うために。
後悔は微塵もなかった。
「ゆ、しゃ……、世界を……救……、生き……」
最後の言葉も届かないほど、気道が圧迫されて苦しい。
でも、おれは生まれ変わっても、勇者の従者だ。
「……くな、ゆ、う……」
そんなに泣いたら、心が壊れてしまうだろ。
おれはそれだけを危惧しながら、その言葉を最後に、意識を手放した。
怖くはない。
異世界から召喚されたおれの、一番の願い事。それは、勇者が心底から笑って暮らせる世界の存在だった。
おれを「たにゃ」と呼んでくれる唯一の存在。その存在が世界にいることが、おれには何より大切だった。
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