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美佐子
部屋を出て一旦キッチンへと向かい、美佐子お気に入りのバカラのペアグラスにオレンジジュースを注いで、彼女の部屋へと向かった。
「気分はどう」
「佐伯先生、来てくれたのね」
「顔色が良さそうでよかった」
「真理子は私を呼んでいたでしょう」
「妹を良く理解しているんだね」
「あの子のことは全て分かっているから」
ジュースが半分まで入った二つのグラスを、窓辺のベッドサイドテーブルに置く。
「毒を盛ったのは、私じゃないわ」
「もちろん分かっている。さっき昼食を用意した料理長と話をしたよ。しかし、料理を作って提供するまでに、彼と給仕係のほか、誰も皿に触れなかったそうだ」
「そう。私が疑われても仕方ない状況なのね。そう言えば、先週、庭師の松井さんが言っていたわ。納戸に保管していた除草剤が無くなってしまったから、新しいのを買いたいって」
「いや。松井さんが危険を犯してまで得られる利点などない。それに今日、彼は非番だ」
「実は私、犯人の目星はついているの」
「なんだって」
細かな装飾の施された縦長窓にかかるレースのカーテンが、小さく揺れている。
薄く開けた窓から満開の桜が見える。
それを見下ろしながら吐いた抑揚のない言葉は、彼女の揺るぎない意思が込められているように聴こえた。
彼女にしか知りえない事実があるのか――。
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