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真理子
「それなら、佐伯先生。美佐子をここへ呼んでくださらない」
「分かっているだろう。被害者である君が、被疑者と安易に会えないことは」
彼女が勢い良く身体の向きを変えると、天蓋付きのベッドが叫び声を上げるように軋む。
「真理子」
――彼女は悲痛な面持ちで顔を歪め、握り締めた拳を小刻みに震わせている。
今日の昼時のこと。真理子の食事に毒性の強い除草剤が混入していたのである。
だがすぐに吐き気を催したらしく、何とか大事に至らずに済んだが。
「あなたに連絡したのは美佐子ね」
「あぁ、そうだ。僕の法律事務所に電話をかけてきた彼女の声は、酷く震えていたよ。君が突然倒れて動揺したのだろう」
「あの子が毒を入れたに違いないわ」
「まだ何の確証もないのに、お姉さんに向かって滅多なことを言うもんじゃない」
「佐伯先生はいつも美佐子の肩を持つのね」
美佐子と僕は古くからの友人である。
自由奔放を絵に書いたような妹とは対照的に、控えめで奥ゆかしい女性だ。己の心中に、美佐子を好意的に思う気持ちが内在するという自覚は少なからずあった。
だからこそ、これまでも度々、日常的に見知らぬ男との逢瀬を重ねる妹の精神状態を案じた、美佐子の相談に乗っていたのだ。
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