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「君さえいればいいよ」
あんな陳腐な台詞はきっと、君しか言えない。
だから恥ずかしげもなく、私を照れさせるんだ。
──いつのはなしだっけ。
あわくやわい感覚でおもう。
夢だと悟りながら、醒めるのを惜しみながら、
それでもまだ、現実との狭間から逃げてみる。
こういうときって、どうしてわかんないんだろうね。
理不尽な白光で、君の顔を見られない。
不自然な雑音で、君の声が聞こえない。
真夏の水中にいるみたいにあったかくて、
都会の中心にいるみたいにうるさかった。
繋いでいた手が離れた。
君はいない。
君がいない。
それでも、
呼吸さえままならないなかで、叫んだ。
わたしも、と返事をした。
意地悪な春風に掻き消されて、届かなかった。
手の中に、羽根が一枚、のこっていた。
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