木と隣るキリン

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ざわざわとした雑踏の中を少年は歩いている。そのうち、頭の中で授業の復習をしている。(空を飛ぶなら願うことが大切なんだ。)(大きなものを飛ばすとかっこいいな。)歩いていると人の声も聞こえる。復習をする人、これからの予定を立てる人、関連のない素敵な雑談。細かいところまでは聞こえないけれど、この雑踏に助けられる。 明日からは実際に飛行訓練もはじまる。空に飛び立つのだから晴れ晴れしているはずだ。けれど…どうしても大きな悩みと同居している僕は、顔にかげりが出てしまう。 雑踏の層が薄くなる中、 とぼとぼと歩いてゆく。 離れてしまう。 いつも通るこの道には木が植わっている。見上げる大きな木だ。今日、その木は元気がなさそうだった。いつもは緑が濃いのだけれど、少し青くなっていた。すぐ隣には大きな影があって、よく見るとキリンがいた。大きい。ちょっと驚いてしまった。 野生なのか何だか分からないけど、この世界は僕が思っているより奇っ怪なので、特に問題に思わないようにした。話しかけたいけど、きっと言葉が通じないので、そのままスルーすることにする。 毎日この道を通ることになっている。僕は空を飛びたいから飛行訓練に通っている。そんな日々にも、木の隣にはキリンがいた。表情は読みにくいのだけれど(キリンの表情って分かる?)危害も加えないし、どこか穏やかな空気を纏っているから、居てもらっても構わない。 少し目線の高いキリンは、僕より遠くの世界が見えているのかもしれない。僕は皆と同じことが簡単に出来ないので、飛行は後からになった。とぼとぼとこの道を歩いてゆく。キリンは何も変わっていない。 毎日同じことを繰り返している気がする。日々パターンは変わらない。飛ぶように、練習できるように、イメージをして授業に取り組んでいる。 だんだん木の緑が戻ってきた気がする。 僕もだんだん飛べるようになってきた。 ある日、キリンが居なくなっていた。木を青くしていた理由は知らない。おそらくキリンも知らない。けれど、 「隣にいることが大切なんだ」 ってことが分かった。 何もできないけれど、 そう思ってた僕も 何か出来てるかも。 明日は最終試験なので頑張ろう。
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