Insomniastronaut

10/13
前へ
/13ページ
次へ
 俺に課された任務は、独裁者を筆頭にした祖国の有力者や頭脳明晰な重要人物たちの肉体から抽出し分析数値化デジタルデータに置き換えた「意識と記憶」すなわち「精神」のバックアップと、彼らの数百名のクローン胚や数万の汎用受精胚が厳重管理された『新世界スターターキット』を載せた恒星間航行宇宙船に置いて唯一肉体を持つ存在としての引率だった。    未来を滅ぼした連中は、地球を見捨てて新天地で帝国を再建する野望に財産をオールベットした。独裁者の死に連鎖した戦犯たちの死は、再誕を信じた当座で偽装の肉体投棄に過ぎなかった。全員が窮屈なメタバース避暑地で生きていた。 「目的地までは約百年かかります。光速の九割程度で航行出来るこの『大白鳥』でも」  科学者は俺に言う。 「俺は百年も生きられない」  俺は科学者に言う。 「貴方には旅程の全般を冷凍睡眠して貰いますので問題はありません」 「冷凍睡眠......だったら俺は夢を見ないで眠れるのか?」  糞野郎共を案内する任務には反吐が出るが、不眠症の夢を見る妄想から解放されるのならばと悪魔との契約を承諾した。 「申し訳ありません。肉体は冷凍されますが、デリケートな脳だけは冷凍されません。もちろん百年間持続するように活性化管理を徹底しますが、その間は夢を見ます」  まさか......もしかして......俺は百年続く妄想不眠症の切符を買わされたのか?
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加