Insomniastronaut

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 渡り鳥は飛行中、脳の半分で睡眠し残り半分を活動させることが出来る。この『半球睡眠』はイルカやクジラにも時折の水面呼吸の必要性として備わっている。彼らは不測の天敵に身構え対応する為に脳全体で眠らない。 『渡り鳥プロジェクト』は半球睡眠に改造された水先案内人の俺に任された。  地球からの大気圏離脱からの光速飛行安定、目的地手前の減速と新天地大気圏突入の手動管理以外はAIに任せればいいらしいのだが、俺は人為的対処が必要とされる不測の事態を監視かつ即対応する為に脳の半球を常に覚醒させ続ける必要があるらしい。  即ち、用無しの時間には眠っているのに寝れない焦りの悪夢を延々と見せられ魘されるのを我慢しろってことだ。  まあ、そんな百年の孤独な苦行を強いられたとて、俺が片棒を担ぎ虐殺しただろう数え切れない命への贖罪には微塵も値しないのは承知しているが。  そして渡り鳥脳を持つ妄想不眠症の俺が操縦桿を握る宇宙船『大白鳥』は、肉体を捨て新生に望みを賭けた俗物たちの魂を乗せて、終戦後の世界の混乱の間隙を縫って、誰にも知られず阻止されず天に向けて打ち上げられた。
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