Insomniastronaut

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 あれから渡り鳥になってそろそろ百年だ。  宇宙空間にはSF映画のように行手を阻むドラマチックな困難も無く、アラートで強制起床させられる事態は一回も起きず、新天地はもう目の前だ。  不眠症の妄想は百年の間も俺を捕らえて離さなかったが、それがコントロールされた半球の明晰夢だと知っていたから相手にしなかった。そもそも人間の年月は地球が太陽を周った回数に基づいているに過ぎず、太陽系を遠く離れ光も陰も矢の如く線となって流れ消える中を航行する渡り鳥にとっては無関係だ。俺の過ごした百年は永遠なのか刹那なのかも分からない。  時間は思考の尺度だ。楽しい時間は瞬く間に過ぎ、退屈な時間はいつまでも終わらない。  全世界の民が望んだ復讐のチャンスを与えられた俺は、この旅路の終わりが待ち遠しくて堪らなかったから余分に長く感じたのかもしれないが、振り返れば短かったとも思える。  大白鳥が光速飛行を緩め着陸の為に減速を始め、俺の冷凍睡眠の接続も解かれた。  自由になった俺は先ずAIとの連携を遮断し権限を剥奪した。新天地のフォーミングで安住環境が整ってから起動する予定の培養装置で独裁者野郎のクローン胚だけを狭い船内で成人まで猛速育成させた。
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