Insomniastronaut

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 クローズドネットワークの肥溜めみたいなメタバースで、道連れにした取巻きたちと優雅なお茶会をしているだろう独裁者の精神/記憶データを退屈から掬い上げてやった。ヤツは突然の事態にジタバタしたが肉体が無いから手も足も出せないのが笑えた。  事前の遺伝子プログラムに忠実な屈強な成人肉体に育った独裁者のクローンの脳に、ヤツのアイデンティティデータをインストールした。これで悪魔の復活儀式は完了した。  大白鳥は新天地である驚くほど地球に似た惑星の成層圏に突入した。この星には東西南北があり四季もあることを調査ドローンが報告した。先住の凶暴な大型生物も確認された。  若返った独裁者の意識が戻る前に脱出用着陸ポッドに詰め込んで拘束した。  俺は慈悲深い男だ。新天地で暫くは過ごせる食糧や必需品もポッドに積載してあげた。武器の類いは入れなかった。だってヤツは己の肉体が武器だって公言していたから。  俺は大白鳥を北に向かわせた。かつて独裁者が無実の人々を強制的に抑留した過酷な凍土を思わせる大地の上で、卵に似たポッドを射出した。 「さあ望んでいた狩るか狩られるかのゲームを楽しんでくれ。お前には強靭な肉体があるから猛獣如きに負ける筈はないだろ? そもそもお前は怪物なんだから」  落下する卵にそう語りかけ、参加者のデータや胚を廃棄した俺は、再び光速の眠れない夢の中に戻った。     END
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