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俺は駄目を承知でベッドに潜り込む。
先ずは表情の消失を試みる。呆けた顔になったら柔弱な舌を歯の裏に収める。顎から頬に練脈し眼孔周りの筋肉を弛緩させる。
続き肩の力を抜き、その後に右左の上腕二頭筋から指先への直線に従い順番に脱力する。
馬鹿の一つ覚えのようにディープブレスを心掛ける。肺房を満たした空気をゆっくり吐く限界まで。そして吸う。また吐きながら大腿筋から踵と爪先まで至るように力を抜く。蛸や烏賊の如き筋骨の無い軟体生物に擬態するイメージで。低下した知能まで模するように脳内を限りなく空っぽにする。
陽光を鏡合わせしたような海面に浮かんだ蛸の姿の俺は、緊張感からの解放と共に深く沈んで行く。
「何も考えない、何も考えない、何も考えない……」
と呪文を唱える。何も考えないことを考えている時点で矛盾しながら。
やがて宇宙空間に似た光り届かない漆黒の深海に達した蛸は無重力の中を漂う。その直後、真空や水圧に潰された如く意識が突然消えた。
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