インソムニアストロノート

Insomniastronaut

　パイロット（pilot）は船で誘導する「水先案内人」を意味する。ギリシャ語の舵（peda）と人（otes）で「舵取り人」が語源だ。
　宇宙飛行士（astronaut）は星（astro）と船員（nauts）の造語だ。

　俺は宇宙の水先案内人としての自分の立場を認識してはいるが、誰を案内するかは教えて貰えない。まあこれだけのプロジェクトを極秘にやれるのはアイツだけだろう。だけど既に死人だぞ？

　深刻な不眠症が不適合理由になることを願って使命からの離脱を考えていた。
「眠れない自分には無理だ」
　と検査医師に告げた。

「これが貴方の睡眠データです」
　医師は詳細な脳波計測結果や睡眠時の監視映像を俺に見せた。
　驚くべきことに俺は終始熟睡していたとデータが証明した。

　眠れないのは妄想だった。
　睡眠の中でずっと無眠に苦しむ夢を見ている状態に過ぎなかった。夢を現実だと誤認したまま、早送り映像の中に頭を抱えることなく朝まで横たわって寝息を立てている俺の姿があった。
　けれど後頭部の傷の下に埋め込まれた固い違和感は本物だ。

「それが貴方の睡眠を監視し管理しています。貴方に渡り鳥になって貰う為の初期段階として」

　俺には医者が話している意味が理解出来ない。