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プロローグ
「いたぞ! あそこだ!」
「追え!」
雷鳴と豪雨にかき消された怒号は少女には聞こえなかった。
少女は人よりほんの少しだけ見える暗闇の中、馬の目の代わりになっていた。
あてもなく馬を走らせ続け、平原を一直線に駆けていった。
とにかく全速力を出す。怖がる馬をリードして、背後に迫る二人の騎兵を振り切るまで。
フードははだけ、外套がバタバタとなびく。斜めに降り注ぐ雨が容赦なく少女を襲う。
降りしきる雨の中、少女は目を開け続ける。馬が飛ばす水しぶきの音は雨音がかき消す。
見えてきた大橋。そこを警備する兵を突き飛ばし、大河を越えて馬が走る。
もうどれ程走っただろう。雲間から星が見え始め、月明かりが草原を照らしている。
馬はもう限界だといった顔で、走るのをやめた。
後ろを振り返る。もう追手は来ないらしい。
逃げ切った。
逃げてきてしまった。
私は逃げてきた。
本当に逃げて良かったのか。
胸の中にガラスの破片が引っかかっているような気分になったまま、馬と共に星空を歩き続けた。
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