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「おめぇがわるいやつじゃねぇってのは、あんのくろんまがいってがったでな。んまはうそつかんだに? しかもまぁずりっぱでな」
相変わらず何を言ってるのか分からないが、牛乳やチーズを好きなだけ食べさせてもらえるし、ライ麦パンや干しりんごも美味しいので何も問題にならない。
ここの生活にも慣れてきた。朝起きて牛や馬の世話をして、飼葉や薪を集めて、乳搾りをして、夜になったら寝る。時々、穀物や肉をミルクと交換する。
村人の目は少し冷ややかだが、毎日が穏やかな日々だ。
他人の村に火を付けて財産を奪い取っていたあの頃とは違う。
私はあんなことしたくなかった。
今日もグロッケンに乗って牛を追ったり、荷物を運んだり。私ができることは馬を操ることだけだ。
そんなある日、事件が起こった。
「はよ、しめろ! ぜったいあけたらいけん!」
急に戻って来た奥さんが慌てて家のドアを閉めた。
「一体……何が……?」
「あかおおかみずら。おらほのむらに、たまぁにきよるんだに」
あかおおかみとはダイアウルフのことである。体重は成人男性くらいの大型のイヌ科動物であり、北方に広く生息する捕食者である。
「そんな、おおかみなんて……。ラッチャーさんは!?」
「あんひとならでぇじょうぶだら……」
クラリッサはオオカミの強さをよく知っている。元居た土地の、バルト教における神の一つであり、馬や羊が犠牲になることもしばしばあった。
クラリッサはラッチャー……助けてくれた旦那さんと、外にいるグロッケンが気掛かりだった。年端もいかない少女は、家を飛び出すのを躊躇いつつ、やはり我慢できなかった。
家にあった弓を引ったくって窓から外に出た。
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