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蛮族の血
牧草地の囲いを飛び越えて辺りを見回すと、ダイアウルフが数頭侵入していた。雄牛とラッチャーが何とかしてダイアウルフを追い払おうとしているのが見える。
甲高い口笛を鳴らし右腕で大きく円を描くと、黒馬が走り寄って来た。
少女の呼びかけに応えたグロッケンは彼女を背に乗せてダイアウルフの元へ向かう。
ベルリナント人は大陸で最も優れた馬の使い手である。ベルリナント人にとって、馬は足そのものであり、手練の騎兵は手綱を必要としないという。
グロッケンはクラリッサの意図を理解したのか、ダイアウルフの側面へ付けるように接近していく。
クラリッサは馬上で思いっ切り弓を引いて、ダイアウルフにギリギリまで近づいてから矢を放った。弓の使い方は下手でも、近ければ外すことはない。
矢はダイアウルフの首を貫いて地面に刺さった。
仲間がやられたと見るや、3頭のダイアウルフがグロッケンに迫った。馬は飛び跳ねながら位置と速度を合わせて、追従するダイアウルフを真後ろに付けさせた。
同じ速度で動く物体は、止まっているのと同じである。クラリッサが丁寧に狙って放った矢が背に刺さって、牧草を撒き散らしながら転がって動かなくなった。
ダイアウルフは仲間が再度やられたのを見て撤退に切り替えた。次々と敗走するダイアウルフを尻目に―――
クラリッサは容赦しなかった。
ラッチャーの傍にあった、干し草を扱うフォークを拾い上げると、ダイアウルフの追走を始めた。
グロッケンが全力で走れば、逃げ遅れたダイアウルフの背中を捉えることは造作もなかった。振り下ろされたフォークが血に染まるのはその少し後だった。
逃げたダイアウルフをしつこく追いかけ回して矢を放つもなかなか当たらない。業を煮やしたクラリッサはグロッケンを囃し立て、真下にある頭蓋に蹄を落とさせた。
次の獲物を探そうと周りを見渡すも、既にダイアウルフは逃げおおせていた。
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