蛮族の血

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 翌日。  ラッチャーはクラリッサを自慢の娘だと誇らしげに語り、ダイアウルフが一人の少女の奮戦で追い払われたことは村の誰もが知るところとなった。  村人がダイアウルフを退けた英雄を余所者扱いするはずもない。  クラリッサは拾われてから数ヶ月で、ようやく村での立ち位置を手にすることができたのであった。  助けられた恩義のために振るった力が初めて肯定された。  それは即ち、クラリッサは初めて自身の存在を誰かに肯定されたということであった。  それだけではない。  ラッチャーとマルガレーテの間には子供が居なかったが、クラリッサを本当の子のように愛情を込めたからこそ、あの時クラリッサは家を飛び出したのである。  だが、クラリッサの胸中は穏やかではなかった。この手が血に染まっていることを、彼女自身が肯定するにはもう少しかかるだろう。  それでも、澄み渡る青空はクラリッサを包み込んでいる。  その日を境に、クラリッサは狩りをするようになった。彼女自身が忌避している力を、正しい使い方で上書きするように。
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